従来の枠組みで計れない価値に確信を持つことは罪ではない

森永卓郎氏が、森永経済提言というポッドキャストの3/19放送分で、次のような趣旨でホリエモン実刑判決を支持している。

  • この実刑判決については一部の評論家から重すぎるのではないかという批判がある
  • カネボウの粉飾では粉飾額が800億円だったのに執行猶予。ライブドアは52億円で実刑
  • しかし、粉飾額でなく社会に与えた被害が問題である
  • ライブドアの株価急落で2週間で6300億円の時価総額が吹き飛び、20万人の株主が膨大な損失を被った。
  • 詐欺の判例と比較するとむしろ軽い判決である

つまり、ホリエモン強制捜査後の株価急落の結果発生した株主の損害について責任を負うべきだという話だ。

私には、森永氏は「ライブドアは企業としての価値が全く無いのに、それを6300億円の価値があるように見せかけた詐欺師である」と主張しているように見える。粉飾というのは、ホリエモンの犯した罪の中でたまたま立件しやすい一部分のことで、ホリエモンの罪は、本質的には「ライブドアに6300億円の価値がある」と主張したことだと言っているように感じる。

私も、ライブドアのメディア企業としての将来は無かったと思う。そもそもネットのポータルという発想が時代遅れであり、テレビ局のコンテンツに大金を投じることは、CGMの時代に即してないと考えている。だから、ライブドアには6300億円の価値は無かったということには同意する。

しかし私は、ホリエモンが「ライブドアに6300億円の価値がある」と主張することが自体が罪であるとは思わない。

それがホリエモンの罪悪の根幹だと、森永氏が考えているかどうか確信はない。しかし、この主張そのものが悪であるとみなす人は多いような気がするし、そういう人は森永さんの論がそれを支持しているように感じるだろう。テレビのコメンテーターが「裁判官は堀江さんの法廷での態度にかなり悪印象を持って、そのため実刑判決になったのではないか」と言っていたのを聞いた。もしそうなら、司法も同じ論理で断罪していることになる。

これは大きな問題のある考え方だ。社会的にコンセンサスが得られない所で、自分の企業の価値について強い確信を持つことが罪になるとしたら、ベンチャー企業やネット企業の運営は成立しない。

ほとんど全てのベンチャー企業は当初は赤字のまま資金を集める。その企業が将来産むかもしれない潜在的な価値に期待して、多くの投資家が自己責任で投資するからだ。見事に成功した企業であっても、赤字の時点で強制的に精算を迫れば、資産はカラッポだ。株主は大損する。

ライブドアには企業としての実体が無いという意見をよく目にするが、グーグルだってアマゾンだって、その潜在的価値が育っている段階では、そういう意味では実体が無い。検索連動広告やネット通販の将来的な市場規模を的確に予測していた人はほとんどいない。いたとしても社会のコンセンサスにはなってない。コンセンサスが成立する前にその分野での優位を確立したから、今のグーグルやアマゾンがあるのだ。

ライブドアは上場企業であるから、経営者はその潜在的企業価値を、現在価値に翻訳して決算という形で株主に見せなくてはいけない。そして、そこには一定のルールがあり、ライブドアはそのルールを逸脱したと見なされた。その判断が妥当であるなら、ホリエモンはその責任は負うべきだろう。

しかし、潜在価値を開拓しなくては将来が無いネット関連の事業の状況を、あくまで現在価値である決算として見せるのは難しい所があるだろう。それでルールの許す範囲ギリギリまでいろいろ工夫して、現在価値を大きく見せようとすることは理解できる。ホリエモン側に立って見れば、そのギリギリの所での解釈について、検察と見解の相違があった。それだけのことではないか。

結果として範囲を超えたわけだから(司法を納得させられなかったのだから)、結果責任は負うべきだが、ルールギリギリを狙ったことには道義的責任はない。

一般化して言えば、これからの国家は従来の枠組みで計れないような形で価値を産み出す企業を育てなければいけないのだ。

ようやくページランクの経済的価値は認識されるようになったが、ページランクの上下に汲々としているようでは、グーグルの手の平で踊らされるだけだ。これからの企業は、ページランクに対抗するような別の指標を作り、それに基いて自社の価値を確立していかなくてはならない。

そのプロセスの途中では、その企業の価値は確定しないし、その価値に社会的コンセンサスが得られることはあり得ない。ある人は自分の会社に6300億円の価値があると言い、別の人は、その価値はゼロに等しいと言う。そして、誰にもどちらが正しいか事前に判定することはできない。それを現実として受け入れて、その中でシステムを整備すべきである。