退却戦の戦い方


退却戦は、味方の損害を最小限に抑えつつ戦線を後退・縮小する作戦行動である。ただ抵抗しつつ漸次後退するだけだと、場合によっては味方の損害を必要以上に増やすことになる。時には敵の想定を上回る速度で部隊を撤収させたり、またある時には局所的な攻勢によって敵の進撃速度を低下させる必要もある(遅滞行動としての退却戦)。言い換えれば、守勢においても陣地戦だけではなく機動戦の発想が必要になるということだ。

セキュリティは退却戦を書いた時に、「退却戦」という言葉で私がイメージしていたのは、まさにこのような戦い方です。

司馬遼太郎さんによると、浅井氏の離反によって大失敗に終わった信長の北陸遠征からの退却戦において、一番危険な最後尾を志願し、それを見事に果たしたのが秀吉でした。信長は早くから秀吉の能力を評価していましたが、織田家の他の武将からは、総務部長的な便利屋さんとしかみなされてなかった。それが、この退却戦の功績によって、名実共に一人前の武将として扱われるようになったそうです。

ネットの拡大に対して、「治安」を担当する人は、まさにこの秀吉のような難しい任務を背負わさせれています。時に、「局所的な攻勢によって敵の進撃速度を低下させる必要」はあるでしょう。しかし、突出したままそこに無防備で留まっていては、孤立無縁のまま打ち取られてしまいます。それは、先に逃げている本隊のより大きな混乱につながります。

つまり、実効性の伴わない無理な取締りを一部の目立つ対象に限定してデモンストレーション的に行なうことは、無意味ではないでしょう。ただし、それは、素早く退却して確実に守れて法的にも無理のない、現実的な防衛ラインを構築できる場合に限ります。非常に、機動的な治安政策が必要とされているのです。