ネットの重心とリアルの重心の中間

iPhoneの自由とオープンさは最上級でなくて常に比較級というエントリに書いたことはグーグルにもあてはまるような気がするので、それを一つの抽象的なモデルにしてみたいと思う。

つまり、この両社の戦略は「ネットの重心とリアルの重心のちょうど真ん中」という位置をキープすることであるということ。

ネットの重心とは、ユーザの行動をユーザの選択に完全にまかせるようなサービス。携帯であれば、中身が公開されていて、ユーザがソフトを全ていじれるような携帯電話。検索であれば、一切の広告が無くて、クローラーの集めたデータから自動生成された検索結果だけを見せるサービス。

ユーザにとってのメリットは極大だが、サービス提供者には一切見返りが無いような形態。

リアルの重心とは、ユーザの行動をサービス提供者側の論理だけで制限するようなサービス。従来のキャリア主導の携帯やバナー広告つきのポータルサイトのようなもの。

他に選択肢が無ければサービス提供者の利益が極大になるような形態。

そうすると、グーグルとアップルの戦略は次のように抽象化できる。

  1. ネットの重心とリアルの重心のちょうど真ん中をキープする
  2. 常に自社の位置をネットの重心の方向にシフトする準備をしておく
  3. 時間が経過するとリアルの重心がネットの重心の方に移動するので、それに合わせて、自社の位置をネット側に移動する(それによって真ん中を維持し続ける)
  4. リアルの重心とネットの重心の距離が無くなるまでに次の市場を探す
  5. リアルの重心とネットの重心が離れているような市場を狙って参入する

この戦略はシンプルで意思統一が楽であると同時に次のような強みを持つ。

  • この二社よりネットの重心に近い企業は、利益をあげられないので、サービスを拡大したり継続したりすることができない。
  • この二社よりリアルの重心に近い企業は、ネットの引力によってユーザを吸い取られていく。
  • 自分よりリアル寄りにいる競合相手に対しては、ネットの論理をユーザにアピールすることで対抗する。(例「Don't be evil」というスローガンをアピール、非DRM化であえて音楽レーベルと喧嘩して見せる)
  • 自分よりネット寄りにいる競合相手に対しては、リアルの手法によって対抗する。(例 YouTube買収、アップルのブランドイメージでLinux携帯に対抗)

つまり、会社が動く方向はネットの重心の方向だと決まっているので、社員は常にそちらだけを向いてよそ見しないで集中して仕事ができる。経営者は、ハンドルを切る必要がなくて、アクセルとブレーキだけで経営できる。

ただし、スピードを正確にコントロールするには、ネットとリアルのどちらにも片よらないバランス感覚が必要で、グーグルの場合は、エリック・シュミットをCEOに据えて、創業者二人との集団指導体制を取ったことでそれを維持している。アップルの場合は、リアルの論理をないがしろにしてアップルを追われたジョブズの個人的経験を教訓とすることで、そのバランスを得た。

そして、両社とも、ネット側からとリアル側の両方から、それぞれ違う理由で批判され続けている。

このモデルの欠点は、「距離」の概念を客観的に定義できてないことで、だから、「まん中」とは何かと言われたら、結局、「一番うまくいっている会社のいる所がまん中である」というトートロジーになってしまうことだ。

でも、「ネットの重心」は、割と厳密に定義できるような気がする。情報が全部公開されていて、ユーザの選択肢が最大で、全ての利害関係者がフラットな関係に置かれるようなポジションが「ネットの重心」だ。IPプロトコルが持っている性質に似ている。ピッタリその位置にいたらなかなか儲けることはできない。

そこに近づき過ぎると絶対に儲からないけど、そちらを向いてないと絶対に儲からない、そういう位置があるという仮説は、実際的なビジネスの指針として、あるいはコミュニケーションの為の概念として使えなくもないような気がする。


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