陰謀でなく洗脳の心配をしろ

陰謀とソフト開発は100%バグ無しにしないと意味がないことが似ている。青画面に「素人のあんたにはわからんだろうが、99.9%うまく行ってたんだ。もうちょっとだったんだよ。本当に」とか出されたって失なわれたワードの文書は戻ってこない。大量破壊兵器の偽造をやって、関係者1000人のうち999人までは完全に口をふさいだとして、最後の一人がCNNや2ちゃんねるに駈けこんだら、「99.9%の成功」とは言わず、完全な失敗だ。

だから、来週発見されるはずのイラク生物兵器にしこむために、これからボリツヌス箘を買いに行く奴がいるとしたら、こいつはほとんど俺の同業者というということになる。

それで俺は、この同業者に同情してしまう。先方の業界のことはよく知らないけどどんな仕事にも「下っぱ」が必要である。その「下っぱ」の始末が大変だろうなと。

チームの志気や技術レベルの平均を一定以上に保つのは難しいができないことではない。むしろ、やりがいのある仕事である。だが「下っぱ」のモラルを保つのは難しい。どう教えても仕事がうまくできず、そもそもやる気がないはたまにいる。おだてても教えてもだめなら脅すしかないが、脅してもそういう奴は視野が狭く理解力がないので、その脅しの意味が把握できない。従って脅しもきかない。そういう奴には「下っぱ」の仕事をさせるしかない。

我々の世界では、まだこういうのを活用するノウハウはそれなりにあるのだが(むしろ下っぱレベルを頭数だけ集めて仕事することが常態となってる方面もあるが)、下っぱに「秘密を守らせる」っていうことは可能なんだろうか?「秘密を守る」ためには、動機づけと技術が必要だと思うが、それを下っぱに与えることは可能なんだろうか?

もちろん、古今東西、完璧な秘密を保ったまま陰謀を継続的に実行してきた組織は数多く存在する。長年の蓄積で、90%の人間のモラールを信頼できるレベルにし、9%を利益誘導し、残る1%を「排除」する、といった、システマティックなノウハウが確立されているのだと思う。だが、あらゆる業界がそうであるように、WEBによってシステムの根幹をなす力学が変化して、根本から考え方を変えなきゃなんなくなる。この業界は「情報」を扱うのだから、いろんな形でネットの影響をもろに受けると思う。

一番わかりやすいのが、メディアの管理だ。あらゆるノウハウを駆使しても0.1%残る「下っぱ」からの情報漏曳という危険性がある。これまではメディアを監視することでこれを防いでいたのではないかと思う。「下っぱ」に脅しの意味が理解できなくても、メディアは組織だから、組織としては脅しの意味を正しく理解する。

でも2ちゃんで「神」になりたいとか考える奴に(すでにそう考えることが馬鹿の証明で馬鹿には理屈は通じないので)脅しは通用しない。馬鹿は理屈にないことをするから馬鹿なので、あらかじめ予測することも難しい。つまり、これまでは「下っぱ」の不確実性に直接対応する必要はなく、メディアの管理を通じて間接的に対応してきたわけだが、これからは直接その不確実性に対応していかなくてはならない。こういう変化が同時多発的にいろんな所で起きているはずだ。

だから、陰謀はこれからはあり得ない。少なくとも、情報を隠蔽することによって悪いことするのは不可能だ。これからの陰謀は、情報がオープンなままで進行する。陰謀と言うより洗脳と言う方が適切かもしれない。これからは陰謀ではなく洗脳と戦う時代になるのだ。