橋本-小川戦

橋本-小川戦をビデオで細かくリプレイしながら見なおした。最初から最後まで一部の隙もなく見せる戦いだった。最後に、猪木がマイクを持って何かわめいていたのものやっと意味がわかった。「すばらしい勝負を見せてくれてありがとう」と言っていたのだ。

あれは、ガチンコなのだろうが、まぎれもなくプロレスだった。プロレスの技というのは、相手が協力しないとなかなかかからないものが多い。本気で相手の技をつぶしにかかったら、試合にならないだろうと思っていた。しかし、本気でやってもちゃんとプロレスというものが成り立つことを初めて知った。そして、負けながら凄みを見せるまさにプロレス的な男のプロレス的な幕切れ。

項羽と劉邦の戦いも非常にプロレス的だと思う。真剣な殺し合いでありながら、勝負を越えたやりとりがあり、相手を認めるからこそ、相手の技に乗った上でたたきつぶそうとする。そして、鴻門の会という有名な場面に、まさにプロレス的な丁々発止がある。

この場面で、両者の参謀の格の違いがあきらかになる。項羽と劉邦がお互いをどのように見ているか。小川と橋本のように、殺意に近い憎しみしかないようでいて、そうではないものがある。これに敬意とか戦いを越えた友情とか安易な言葉はあてはまらない。その「何か」が、劉邦の参謀である張良には見えていて、項羽の参謀である范増には見えてない。両者の知謀は同等だが、ここにわずかの差があり、これが最後に勝負を分けた。

この時点では項羽が圧倒的に有利であるが、范増は項羽をして劉邦のトドメを刺させることに失敗する。後に立場が逆になり、張良劉邦をして項羽にトドメを刺すように決断させることに成功する。プロレスの枠を超えてしまう劉邦の心の痛みを張良はわかっていた。わかっていて、あえてそれをさせる張良の凄み。そういう凄い男をかかえこんでしまった劉邦の凄み。

こういうのは*司馬遼太郎*の脚色なんだろうと思ってたけど、真剣勝負の中にしかありえないドラマってものがあるんだな、と小川-橋本戦を見て知り、やはりあれは実際に起こったことなんだろうと考えを変えました。