クラッキングでは敵の力の見極めが重要

(5/20 追記)

ここに書いた内容は完全に間違いでした。詳しくはこちらのエントリに書きました →
http://d.hatena.ne.jp/essa/20140520/p1

(追記終わり)
PC遠隔操作事件で真犯人を名乗るメールが報道関係者等に送られたそうだが、内容を見ると単なる愉快犯とは思えない。

これを捜査を攪乱する目的で片山被告自身が発信したと見る人がいるようなので、それについてひとこと。

もし、片山氏が超人的なITスキルの持ち主であれば、警察の監視の目をかいくぐってこのメールの作成のために必要な記録をどこかに保存して、密かにそれを参照しながらタイマーで本人が公の場にいる時間に合わせて発信することは可能である。

ただ、見逃されがちなことは、ここで問題になるのは、ITスキルの絶対値ではなく、「敵」との相対的な比較である。「敵」とは第一義的には捜査機関でありこれはこれまでの経験で見極めがつくかもしれないが、それ以上に、野次馬や関係者の中にいる無数のプログラマや専門家である。

自分がいかに優れたハッキングのノウハウを持っていても、「敵」の中にそれを上回る人が一人でもいれば、何らかの証拠をつかまれてしまう。

ここまで警察を挑発すれば、警察も必死になって専門家に頼るだろうし、野次馬的に興味を持つ人もたくさん出てくる。

たとえば、サーバの運用会社の人間が、運用ルールや法規に違反して興味本位で顧客のデータを盗み見ることだってないとは言えない。関連キーワードで検索したり、時間を絞って自社ネットワークへのアクセス記録を調べたりしたらどうだろうか。

「誰がどうやっても見つからないようにできる」なんて思えるのは、素人だけだ。プログラマとして経験をつめばつむほど、この世界の能力の分布は広いことが経験でわかる。上には上がいるし、上の人ほど謙虚である。それは人格の問題ではなく、能力が高い人ほど他人の能力を正確に判定できるということだ。「自分よりさらに上がいる」というのは謙遜ではなく、単純に彼が見た事実なのだ。

それと、クラッキングは総合力の問題で、OSやバイナリの知識から、ネットワークの運用の実態など、多方面の能力が必要とされる。表の世界の話だけではすまなくて裏の世界特有のノウハウもいろいろあるようだ。それら全ての分野でエキスパートになるのは無理だ。

だから、片山氏が標準以上のプログラマであれば、こういう偽装メールを発信することのリスクが分かるので、そんなことはしない。

標準以下で、誇大妄想的な自身過剰であったらやるかもしれないが、それではすぐに尻尾をつかまれるので、ここまで事態を長引かせることはとても不可能だ。

自分が完全にフリーの身であれば、「理論的に見つからない方法」はあるし、そんなに真剣に捜査されない見込みがあれば「相対的に自分のスキルが上だ」という判断が合理的であるケースもあるだろう。

だが、これだけ注目された事件の被告であれば、「スキルの絶対値が高い人は敵との相対比較についてどう考えるだろうか」という考察が必要だと思う。