放射性物質とは何か(化学反応と核反応の違い)

はじめに

放射性物質とはどういうものなのか?ということについて、できるだけわかりやすく書いてみました。

原理的な話が中心なので、これだけを読んでも、現実的な安全性の判断等にはほとんど役に立ちません。

ただ、化学反応と核反応の原理的な違いを知ることで、他の方の説明を理解する助けになることもあるかと思い、書いてみました。

なお、私は専門的な知識はありませんので、内容の正確性は保証できません。また、正確性よりわかりやすさ読みやすさを優先して書いています。あくまで、他の説明の前段階の導入のための説明としてご利用ください。

化学反応と核反応

火力発電所原子力発電所の違いは、化学反応による熱で発電するか核反応の熱を利用するかの違いである。

ちょっと乱暴に言うと、火力発電所は分子を壊して発電するのに対して、原子力発電所は原子を壊して発電する。分子を壊して組み換えることを化学反応と言い、原子を壊して組み換えることを核反応と言う。

薪を燃やすのでも石油を燃やすのでも、ものを燃やすのは、全て化学反応だ。化学反応は我々の日常生活の中にはたくさんあり、ものを燃やすことだけでなく、人間の身体が食べ物を消化するのも呼吸するのも全て化学反応だ。工場で物を作るのもほとんどが化学反応だ。

だから、化学反応は核反応より直感的に理解しやすい。火力発電所で事故が起きたら、何かが燃えていて、燃えているということは、何かの分子が酸素と結合して新しい分子ができているということだ。おおざっぱに言えば、たきびをしているのと違いはない。

核反応は、実際には我々の回りでも(体内でも!)たくさん起きているが、どれも非常に微細な反応である。日常的な生活の中で我々が目にする核反応は太陽の中で起きている核融合反応だけである。

粒子の配置とエネルギー

核反応を理解するためには、まず、原子や分子を「壊して組み換える」とはどういうことか、なぜそこから熱を取り出せるのか、ということを漠然とでも理解する必要がある。

そのためには、後ろからふいうちで膝カックンをやられて、尻餅をついてしまう様子を思い浮かべると良い。

人間の体勢は、膝を伸ばして立っている状態と、膝を曲げて尻を地面につけて座っている状態が安定している。膝を中途半端に曲げてスクワットの途中のような姿勢でじっとしていることは難しい。膝が一定以上曲がったら尻餅をつくまで曲げるしかない。

原子や分子のような粒子が組み合さっている場合も、いくつかの安定した状態とその中間の不安定な状態がある。そして、安定した状態と別の安定した状態の間には、エネルギーの差がある。尻餅をついて痛いのは、立っている状態の方がエネルギーが高く、座っている状態はエネルギーが低いからだ。そのエネルギーの差分が尻の痛みになる。

たとえば、水素を燃やす時は、O2 + H2 + H2 → H2O + H2O という反応が起こる。左が立っている状態で右が座っている状態だ。座っている状態の方がエネルギーが低いので、左から右に移行する時にその差分のエネルギーが解放される。これが燃える時の熱になる。

核反応も化学反応も粒子の組み換えの前後でエネルギーの差があり、その差分がその反応によって生み出される熱量になる、という点では同じだ。

ただ、化学反応では分子を組み換えるのに対して、核反応では、原子を組み換える。正確に言えば、原子核を壊して組み換える。原子は多数の電子と一つの原子核で構成されているが、その原子核を壊して組み換えることが核反応だ。

原子核をかたちづくる力(核力と言う)は、分子をかたちづくる力(電磁気力)よりはるかに大きいので、原子核を組み換える時には、分子を組み換える時よりはるかに大きなエネルギーが必要であり、結果としてはるかに大きなエネルギーが出てくる。

その違いをイメージするには、ホームランを打つのと、バットでボールを粉々にすることの違いと考えればいいと思う。ものを燃やす時の温度が高いとか低いとか言うのは、ホームランの飛距離が違うくらいのもので、どれも似たようなものだ。ボールをぶち壊す力とはだいぶ違う。化学反応で原子核はこずき回されるが、普通の熱ではそれが壊れることはない。

原子力と火力でエネルギー効率が根本的に違うのは、元となる力(核力と電磁気力)が根本的に違うからである。

安定状態と放射性物質

そして、原子核を壊して組み換える時、つまり、原子の部品(陽子と中性子)の組み合わせには、中途半端に安定な状態がある。

これは、組体操でピラミッドを作って、それが段階的に崩壊する様子を思い浮かべればいいと思う。つまり、中間にいる人がうっかり手をすべらせて、バンザイをしてベチャっとなったとすると、ピラミッドは崩壊するが、その途中で瞬間的に、耐えている人とベチャっとなった人が両方いる状態が発生する。

全員がベチャっとなって完全につぶれた状態は安定した状態だが、中間の数人だけがベチャっとなって、他の人がまだ頑張って耐えている状態は、部分的に安定な状態だ。ピラミッドが完全に崩壊する途中で0.5秒くらいは、誰か数人が耐えていて他の人はバンザイしている中間的な安定状態があるだろう。

原子核を壊して生成される物質(核廃棄物)の中には、このような中間的に安定な状態の物質(原子核)がある。組体操のピラミッドは1秒以内にこの状態を通り過ぎるが、原子核の場合は、ミリセカンドの場合もあるが、日単位、年単位とさまざま時間でこの状態を通り過ぎる。

使用済みの核燃料は、中間的に安定な状態の原子核を持つ物質をたくさん含んでいる。このように、不安定な状態の原子核を持った物質が放射性物質である。これが少しづつ壊れて熱と放射線を出す。

化学反応(燃焼反応)において、これと似た状態はあまりないが、強いて言えば炭だと思う。炭は材料が中途半端に燃えた状態で、条件によっては火が消えるが状態が変わるとまた燃え出す。一応は安定しているが、燃えつきてはいないので(完全に安定な状態に移行していない)ので、火をつければまた燃え出して強い熱を出す。

まとめ

以上の説明内容から、放射性物質は人間等の生物にとって他の物質とは大きく違う物質であることがわかる。

  1. ほとんどの毒物の毒性は、その物質が体内で引き起こす化学反応が人間にとって害となるものである。そのような毒物と放射性物質の害は全く異なる
  2. 化学反応は原子核には一切作用しない。従って、薬品等による化学反応によって放射性物質の特性を変えたり反応を早めたり遅くしたりということはできない
  3. 生物の代謝や感覚器官は、化学反応をベースとしている。従って、核反応を感じる感覚器官や放射性物質を異物として認識してそれだけを排出するような生来の器官はどの生物も持っていない

また、分子の性質、つまり分子がどういう化学反応を起こすのかは、原子核の回りの多数の電子の配置によって決まる。その配置は、原子核が安定していてもそうでなくても同じだ。

たとえば、通常のヨウ素であるヨウ素127と、核反応によって生成されるヨウ素131は、電子の配置は同じなので、同じ化学反応によって人体に取り込まれる。しかし、両者の原子核には違いがあり、ヨウ素131の原子核放射線を出しながら崩壊して別の原子核になる。

この時放出される放射線が人体に害となるのである。

また、現在、福島第一原子力発電所で起きている問題の第一の原因は、使用済み核燃料の崩壊熱である。

使用済み核燃料の中には、原子核を壊してできた中間的に安定した状態の原子核を持つ物質がある。これは、壊れかけの組体操のピラミッドと同じで、全員がペチャっとなるまで(安定的な原子核に崩壊するまで)、核反応を起こし続ける。その時に、発電に使う熱よりはずっと低いが一定の熱を放出する。この反応は化学反応ではないので、止めることはできない。ただ冷やし続けるしかない。

そして、この過程は何重にも外界と隔てられている中で行なわれるはずであったが、その熱を冷やせないでいると、蓄積した熱によって、隔離している防御が壊される(格納容器、燃料棒、パイプ等の破損)。そうすると放射性物質が外に出てしまう。