冷却不可と再臨界は分けて考えよう

「使用済み燃料を冷やせなくなると温度が上昇して再臨界する」という勘違いをしている人をよく目にする。致命的な間違いではないが、何か起きた時に混乱を大きくする可能性もあるので、コメントしておく。

そもそも、原子力発電において臨界と温度は関係ない。一番わかりやすく言えば、正常運転を開始する時原子炉は常温のままだ。つまり、圧力容器を水でひたし、そこに燃料を入れて、制御棒を引き抜けば、原子炉は臨界状態になる。この時に、燃料以外に熱を発するものはない。常温の水の中で燃料がいきなり燃え出すのだ。

「燃料が燃える」という表現は本当はおかしくて、燃料は酸素と結合して熱を持つのではなくて、中性子が燃料の原子核に衝突して熱を出す。臨界するかどうかは、中性子がうまいこと原子核に衝突するかどうかで決まる。

原子炉の燃料になるウラン235という物質は、中性子が命中して壊れる時に中性子を出すので、ひとつ壊せば、それが中性子を発射して次の原子核を壊し、それが発した中性子が...という具合に反応が連鎖的に起こる。

この時、関わる中性子がどんどん増えていけば核爆発、一定の範囲に収まって継続すれば臨界と呼ぶ。

だから、臨界に一番重要な条件は、中性子が次のターゲットの原子核を見つけられるかどうか、つまりウラン235の濃度(分布状況)だ。原子力発電の燃料は、うまく行って臨界するだけの濃度しかないので、原子炉の中では核爆発は起こらない。

次に重要な条件は中性子のスピードで、原子核に命中して飛び出した中性子は、そのままだと速すぎて次の原子核には命中できないそうだ。ここがちょっと不思議な所だが、とにかくスピードを遅くしないと、次のターゲットに当たらないので、反応は一回限りになって継続する臨界にはならない。

そして、そのスピードを遅くするものが減速材で、福島の原子炉では水が減速材として使われている。

だから、臨界が起こる第二の条件が原子核原子核の間に水があること、つまり燃料が水にひたされていることだ。

つまり、燃料が水の中にいい感じに配置されていると臨界が起こる。燃料や水の温度は一切関係ないが、温度が高いと水は蒸発するので、むしろ臨界の妨げになる。

では、水をかけない方がいいのではないかと思われるだろうが、まさにそのとおりで、再臨界を防ぐ一番簡単な方法は水を止めてしまうことで、問題がそこだけなら、水を抜けば解決する。

事故を起こした原子炉の始末の焦点は、再臨界ではなくて、使用済み燃料の発する崩壊熱とそれによる放射性物質の拡散だ。これはこれで問題なので、水はかけ続ける必要がある。

つまり、水が燃料にかからなくなると、再臨界は起きないが、以下の問題が起こる。

  1. 放射性セシウム等の放射性物質が気化して、外へ出ていく
  2. (もうすでにやられてるかもしれないが)圧力容器や格納容器が熱で溶ける
  3. 水素爆発や水蒸気爆発などの爆発現象を引き起こする

どれが起きても、放射性物質が外に出てしまうので大きな被害をもたらす。だから、水はかけ続けなくてはならない。

崩壊熱は臨界(ウラン235核分裂)とは全く別の現象で、臨界ほどの威力はないが、一定の年数が過ぎるまでは着実に熱を出し続ける。絶対に止まらないことが脅威で、止まらなければ、どんどん温度が上がり何でも溶かしてしまう。

だから、結論としては、水がかからない=温度が上がる、ということが大問題であることには変わりはないのだが、「温度が上がることによって再臨界」という流れはあり得ないし勘違いなので、なんとなく混乱の種になりそうな気がして書いておいた。

なお、熱で燃料棒などの部品が溶ける→燃料の位置(配置)が変わる→臨界条件を満たすという流れは理論的にはあり得るが、相当な悪い偶然が重なることが必要で確率は低いと思われる。それを懸念することは無意味ではないと思うが、少なくとも単純に熱だけで起こる現象と区別して考えることは必要だと思う。また、それを懸念するなら、熱と関係なく水流が変わってペレットがころがることでも同じ懸念がある。