原子炉は水をかけるとよく燃えます

【阿比留瑠比の極言御免】吉田元所長死去で菅元首相、ネット上で大暴走という産経新聞のコラムで、菅氏が批判されている。これについて直接は論じないが、この問題を考える時に誤解されやすい技術的な問題について指摘しておきたい。

実際のところはどうか。事実関係をたどると、東電本店が吉田氏に海水注入中断を求めたのは、菅氏自身が「再臨界」に強い懸念を見せたからにほかならない。官邸で一部始終を目撃していた関係者は、「速やかな海水注入を求める専門家らに対し、菅氏はこう怒鳴っていた」と証言する。

 「海水を入れると再臨界するという話があるじゃないか。君らは水素爆発はないと言っていたじゃないか。それが再臨界はないって言えるのか。そのへんの整理をもう一度しろ!」

菅氏が、原子炉に水を入れようとした東電関係者に怒鳴っていた、というこの話が本当なら、この人、やっぱりちょっと錯乱気味だったんじゃないかと感じる人が多いだろう。

しかし、原子炉というものは水をかけるとよく燃えるので、水を入れる時に「本当に大丈夫なのか?」と言うのは、正しい普通の反応である。

正確に言うと、軽水炉は水を減速材として使っているので、水がないと臨界反応は起きない。もしなんらかの理由で臨界反応が止まらなくなったら、水が蒸発して、臨界反応が自動的に止まる。この仕組みでフェールセーフになっているが、この軽水炉というタイプの原子炉の長所である。

この時点では(今でもそうだが)、原子炉の中がどうなっているのか誰にもわからない。本来は制御棒が挿入されることで反応が止まるのだが、ひょっとしたらそれが機能せず、水が無いことで(フェールセーフ機構が働いて)反応がおさまっている、という状態なのかもしれない。そこに水を入れたら、臨界反応が起こって大爆発が起こる可能性がある。

原子炉の中では、水は反応を促進する要注意物質なのだ。

我々が日常目にするものは、水をかけると反応がおさまるものがほとんどだが、原子炉の中では話が逆になるのだ。そこを補足しておかないと、ここの菅氏の発言の意味はわからないだろう。補足説明を入れておくべきだと思うが、そもそもこれを書いている人もわかっていないような気がする

水を入れたことが間違いだったのかと言えば、もちろんそうではなくて、水は必要である。崩壊熱という別の問題があるからだ。臨界反応が止まったとしても、運転中に使用された核燃料は、放射性崩壊という現象で熱を出し続けるので冷やし続ける必要がある。これに水をかけないと温度が上昇し、熱で燃料が溶けて水素爆発や格納容器の毀損など別の多くの問題を引き起こす。

それが実際に起きてしまったわけだが、これは再臨界に比べれば、まだ低い脅威で、あの事故がここでおさまったのは不幸中の幸いである。継続的な再臨界が起きていたらとてもこんなことではすまなかっただろう。

だから、「一刻も早く水を入れろ」と言いながら同時に「水を入れることによる再臨界の可能性がないかしっかり検討しろ」と言うことは全くおかしくなくて、むしろ、この人は原子炉の仕組みをよくわかっていると思う。

もう少し細かく言えば、ここで問題になっているのは、「真水と海水の減速材としての機能の違い」であり、そこまではたぶん菅さんはわかってない(私もわかってない。あの時どこかで聞いたような気がするけど忘れた)。ただ、海水で炉をダメにすることを懸念していたのは東電の本店であり、菅さんはそこじゃなくて再臨界を問題にしていたのだと思う。

なお、菅氏のツィッターによる対話は、下記記事にまとめられています。

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