主夫でWebサイト自営という生き方

私が、Web+DB PRESS誌で連載している「圏外からのWeb未来観測」の第3回が gihyo.jp で公開されました。

今回のゲストは、阿部昭敏君という非常にユニークな生き方を実践している人の話なので、プログラマ以外の方にも是非読んでいただきたい内容となっています。技術的な話は前半だけで、「主夫になるまで」という所からは、ほぼ、一般の人にも楽しめる話だと思います。

それで、メイキングというか裏話というか、インタビューをして記事としてまとめた後になって、ジワジワ考えてしまったことがあったので、ここで、それを書いてみます。

阿部君とは、17年前に同じ会社で一緒に仕事をしていて、直接合うのは本当に久しぶりだったのですが、話してみて、すごくイキイキと仕事をしていることを感じました。

一般的に、プログラマは、技術寄りの人とビジネス寄りの人に分かれていて、もちろん両方できる人もたくさんいますが、自分のホームグラウンド的な所は、どちらか一方に偏りがちです。阿部君は、どちらもできる人であり、どちらにも片寄らない、けっこう珍しいタイプで、そういう彼が、自分の適性を生かすには、今の仕事のしかたが一番合っているのだと思います。

というのは、両方できる人はどこでも重宝されると思いますが、そういう人はどうしても、複数のプロジェクトを見たり、大きなプロジェクトを上から管理する立場になったりして、現場から離れてしまいがちです。ところが彼は、

本当にうつで一日中うちでぐったりしてるような状態だったんですけども,ちょっとずつ何か始めたいっていう気持ちが起きて…小さいころから古本屋が好きだったんですね。で,ネットで古本屋がやりたいと思って,最初は,既存のパッケージを使ってたんですけど,やってるうちにこれだったら自分で作ったほうが安上がりだと思って作りはじめて…。

とあるように、モノを作る現場にいたい人だったんだと思います。

そういう自分の原点を発見するのに、うつで休んでいた時間が大きな意味があったように思います。

もちろん、うつで仕事に行きたくても行けないというのは、本人にとっても回りの人にとっても、とても辛い状況なので、とても「うつになって良かった」などと言えるものではありませんが、それでも、「空っぽになって原点を見直す時間」というのは、本当は、誰にとっても必要なのではないかと感じました。

技術的な話も、記事に出ている以上に、かなり深くいろいろ聞いたのですが、同じような仕事をしている人間として、彼の下した、たくさんの技術的判断の中に「迷いのなさ」を感じて、私は自分のことをいろいろ振り返ってしまいました。

一つのシステムを構築するには、どんなにあたりまえのシステムでも、たくさんの決断が必要になります。私もプロとして、お客様の為に最善な方法は何かということを一つ一つの決断のたびに考えているつもりなのですが、一方で、常にそこには邪念がつきまとうことも事実です。つまり、「ここでこれを勉強して後に生かしたい」とか「模範となるようなシステムを作って教育のネタにしたい」とか「これを今さらやっても次に使える場面はないだろうな」とか、いろいろなことを考えてしまいます。

ところが、阿部君の場合は、どうも、お客様の為という一点だけに集中して、それだけでシステムの開発をしていて、しかも、それを本人がとても充実して楽しんでやってるんですね。私の思いこみかもしれませんが「そうか、本物の適職をゲットした人はこういうふうな仕事をするんだな」という印象を受けました。やることが無駄なく全部、顧客にとっての価値につながっているので、力を入れなくてもいい仕事ができているという感じです。

私は彼を見習いたいと後になるほど思うようになったのですが、その為には、自分のことをもっとよく知らなちゃいけない、その道は遠いなあ、と感じています。