本好きはこれを読んで祝杯をあげよう!
私は、本というものはシーケンシャルなテキストの形に収められた人間の精神そのものだと思っている。
だから、本を読むということは、単なる情報の摂取ではなくて、一つの魂との出会いだと感じている。小説だけでなく、軽いエッセイ集でも実用書でも学術書でもそういう読み方をする。どうやってもそういう読み方のできない本を読んだ時は、たとえ、そこにどんなに有用な情報がコンパクトにまとめられていても、「ああ、時間の無駄だった」と感じる。
それは、自分と本との出会いと関係があるだろう。
私には、学校というのは本当に自分に合わない場所でつまらなくて馬鹿らしくて、辛くてしょうがなかった。だから、私には高校までの記憶がほとんどない。唯一覚えているのは、古本屋巡りをして、乏しい小遣いの中から、50円の文庫本を探して回っていたこと。
当時は、地方の小都市でも古本屋がたくさんあり、どの店にもかならず、店の隅っこに古い文庫本だけを乱雑に集めた一角があり、さまざまな本が置いてあった。そこで出会ったたくさんの本が、自分の人生の中で唯一の救いであった。
たくさんの本を読むことで、人間というのはいろいろな人間がいるものだな、ということを漠然と感じていて、これだけ多種多様な人間が存在していいのなら、この自分にも存在理由があるのかもしれないと思った。
そういう人間が、昨今の情勢を漠然と見て感じるのは「ああ、もう、かって自分を救ってくれた自分の好きな『本』というのは消えてなくなってしまうのだな」ということだ。
一方で私はデジタルガジェットが好きでネットを見るのが面白くてしょうがない人間でもあるので、こういう本は誰より先に読みたいと思う。
そういう自分だから、ちょっと複雑な感情を持って読みはじめた。たぶん、これは本に対する死刑宣告であり、あの佐々木さんが書くのだから、スキがなく容赦なく救いのない死刑宣告になっているのだろうと。自分の中の一部分と決別する覚悟を持って読みはじめた。
ところがそれは大きな勘違いであり、書かれていたのは、むしろその逆だった。
これから、私が好きだったような本というものは蘇えるのだ。それが、綿密な取材と説得力あるデータで裏打ちされている。
まず、ここには、私が望むような本が少なくなっていた理由が分析されている。
ポイントだけ言えば、それは「記号消費」という問題だ。「この服を着る私」「この本を読む俺」「この音楽を聞く自分」という、自分を飾り演出する為に消費する対象としての本。そして、その「記号」を与えると売上がのびるので、「記号」を着せて売ることにやっきになっていた関連業界。
確かに、本がそういう売られ方をされ、そういうふうに読まれるのをたくさん見てきた。それに違和感を感じていた。アイドルと風俗の話をして、それが恋愛の全てだと言われたような感じ。巧妙に「出会い」というもの消去した空虚な本の読み方で、いったいそういう読み方をして楽しいのだろうかと、ずっと疑問に思っていた。
マスマーケティングが有効に作用する世界においては、そのやり方が確かに有効で、業界みんなで「記号消費」という麻薬でハイになっていたのだ。
今起きているのは、「記号消費」に対する解毒剤を手に入れた読み手の側に、麻薬中毒の業界が対応できてない、ただそれだけのことだ。
テキストが在庫費用のかからない電子的な媒体になるということは、ロングテールが極まるということで、それによって「記号消費」は確かに崩壊するけど、本と読み手の関係は、むしろ原点に戻る。
出会いをナビゲートできる熟練の読み手とコミュニティが前面に出て、「出会い」としての読書が復活するのだ。
ちょっと、自分流に誇張しているかもしれないが「電子書籍の衝撃」に書かれているストーリーは、だいたいそんな感じだ。
実際、私は、40代になってブログを読むようになってから、読むジャンルが広がり読む本も増えた。
自分のブログに何か面白いコメントを残した人のブログを継続的に読んでいると、何やら自分の知らない難しい本のことを書いている。単発で読んだら理解できなくて終わってしまう断片的な感想であったりするのだが、ブログの流れの中で読んでいると、何か感じるものがある。
そういう時は、予備知識がなかったり以前読んで挫折した本であったりしても、とりあえず言及されている本を読んでみる。
そうすると、「おお、これだけたくさんの本を読んでいる自分にも全く知らない世界がこんなに残されていたのか」とビックリすることが多いのだ。
それで、今度は本の名前や著者の名前で検索してブログを探す。そこにもまた知らない本のことがあって、以下同文。
こういう「人」をツテにして読むべき本を探す旅というのは、「記号消費」の正反対の読み方だと思う。
これから、業界の構造が変化して、そういう売り方で本がたくさん売れるようになる。
本好きにとっては、これから楽しい時代になることを実感できる本だ。