統合心理学への道 序章要約
コスモスにはあなたが考えるよりずっと広く自由な場所があることを示したい(序文より)
まだ序章を読んだだけなんだけど、これは面白い。自分なりにポイントだけ要約してみます。
まずウィルバーは、古今東西あらゆる「知」を次のようなマップで4つに分類しようとします。
内面 | 外面 | |
個人 | 主観性:フロイト、ブッダ | 客観性:行動主義、物理学 |
集団 | 間主観性:クーン、ウェーバー | 間客観性(ネットワーク):システム理論、マルクス |
これ自体はありがちな図式なんだけど、ここからの議論の展開がなかなかスリリング。
次にウィルバーは、この4つの領域において、「正しさ」の基準が違うことに注目します。
内面 | 外面 | |
個人 | 真実性 | 真実 |
集団 | 公正さ | 機能適合 |
- 真実
- 客観的な事実に適合する限り真実
- 真実性
- (自分が自分に嘘をつく可能性を考慮した上で)私は真実を告げているかどうか
- 機能適合
- 個人という部分をむすびつける客観的なネットワーク、全体、システム
- 公正さ
- お互いを認識し、かつ尊重することを可能にする間主観的な空間の主観的な適合
それで、この4つの「正しさ」のひとつだけで全体を説明しようとすると、どうなるか。
仮にこれらの象限のどのリアリティを拒否しても、否定された象限は、そのシステムの中にそっと忍び込み、そのシステムを内部から食い荒らしてしまい、やがて巨大な矛盾となって表面への躍り出る(P35)
いくつかそういう矛盾の例をあげると
- 厳密に実証可能であると主張する為には、間主観的な構造に立たなければならない
- 極端な構成主義者は客観的な真実などないと主張するが、その理論は権力によって歪曲されてないか
- システム理論が道徳的にすぐれているという主張は、システムの外に立つ立場にことであり、理論によって否定される
- 真実を合意に還元するには、客観的に確認できる共通性が必要である
それで、この4つの領域の中で、個人の内面に焦点をあてた左上の領域については、人間の発達段階に対応した「意識のスペクトル」という地図が書かれつつある。つまり、言わば、X軸Y軸と別にスペクトルというZ軸があるというかたちで、この図式を発展させていきます。
それで、心の問題について心理学と宗教を統合したように、他の領域についても、Z軸方向(スペクトルあるいは発達段階の軸)を広げていくことで、本当に包括的な「知」に向かうのでは、というようなことをほのめかして、ここで総論が終わって各論に入っていくという流れです。
「さまざまな真実があってどれも正しいけど、それぞれの『真実』が互いに相手を否定するのが困る」という悩みを持っている人には、ひとつの処方箋になると思います。
もちろん、「発達段階という考えはひとつの権力」とか「その4つの領域の取りまとめをするおまえが一番偉いと言いたいのではないか」という批判はすぐうかびますが、それは当然ながらウィルバーは意識しているはずで、どういう答えがあるのか楽しみにして、これから続きを読みます。
それと、松永太郎さんの訳が素晴しくて、本当に読みやすく深みのあるいい日本語になってます。昔、何度かウィルバー本に挫折した経験のある私としては、それも本当にありがたい。