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亀井の地元の広島では、一般党員の投票はしないで一部の幹部だけの投票で出来レースをして、亀井に3票入れた。問題は、なぜ他の県ではこの方法を採用しなかったのかということだ。もちろん党則には予備選をやるという規定はない。県連の幹部が独断で決めていいことだったはずだ。

つまり、今回の小泉勝利の陰には、県連幹部の明確なdecisionがあったということだ。もちろん、選挙の達人揃いの橋本派が読み違えたくらいだから、結果がこうなると思って予備選をやった所は少ないだろうが、どういう理由にせよ、通常と違う行動パターンをとったことは確かである。

つまり、国民の声が届いたというよりは県連幹部の意向でこうなったと見るべきだろう。これをどう捉えるかは難しい所だが、素直に読めば単に参院選に負けたくなかっただけだろう。県連幹部の無党派に対する危機感が本物だったというだけの話だ。

ただ、自民党の組織というものが良く機能していることは間違いない。「本社より現状をよく認識している現場」というのは珍しい現象ではないが、その認識を具体的な行動にできる下部組織は少い。そもそも、行動するということは自分の頭で考えているわけで、これができる一般社員をかかえた会社でさえ、それほどたくさんあるとは思えない。そう考えると、民主党には本気になった自民党に勝てるとは思えない。

それで、この危機感がどこから来るのか考えていたら、テレビからT.REXが流れてきた。俺の世代にとって懐しい曲をCMで使うのは珍しいことではないのだが、これまでそういう曲が流れる場面は、例えば車とかマンションとか、30代40代向けの商品で、マーケッティングの結果狙いうちされたことがみえみえであった。しかし、ここの所、どうみてももっと若い人向けの商品にも昔の曲が流れるようになった。

ポップスというのは、根源的になまものであって、流行らなくなった瞬間に価値の90%を失うものだ。リバイバルは歌舞伎と同じ古典芸能であって、たとえ同じ曲であっても、現在形でチャートにのった時とは、脳の別の部分を刺激して売れているのだ。だから、10代向けの商品にリバイバルソングが使われるということは、ポップスが若者を魅了する力を非常な速度で失っていることを意味している。今、この瞬間にT.REXに勝てるポップスが生まれていないのだ。

俺は、自民党の県連幹部のようにあちこちの冠婚葬祭に駆け回ったりはしないので、こういう所から「危機感」というものを持つのだが、たぶん、同じものを感じているのだと思う。今、何かがもの凄い勢いで地滑りを起こしているのだと思う。

この崩壊の深さを感じた時、俺は初めて日本がアメリカの先を行っていることに気がついた。