星新一の毒

星新一の古いショートショートを読んでいたら、こんな話があった。若くして両親に死なれ、苦学して大学を出たものの、運に恵まれず職を失い死ぬことを考えていた主人公が、突然、未来の世界につれていかれた。何をさせられるのかと思うと、「苦労話を聞かせてくれ」という依頼。未来はみんな幸せになっており、悲惨な話に飢えていて、この主人公はたちまち人気者になったとさ。

どこかで聞いたような話だと思ってよく考えてみたら、これ「電波少年」じゃないか! そういえば、筒井康隆にはもっとそっくりな「俺に関する噂」という名作がある。こちらは、ごく平凡なサラリーマンの「俺」のつまらない日常を、突然、テレビや週刊誌が連日のように報道しはじめる、というストーリー。

悲惨や苦労に飢え、非凡なスターの幻想にも飽きてしまった、現代人のこころを見抜いて、きちっとヒット作品を生み出したTプロデューサは天才だとすると、それを30年前、つまり、テレビが大衆化してまもない時代に、その行くつく先を見抜いていた、この二人はなんなんだ。

ついでに言うと、若い頃は星新一というのは人畜無害な作家だとばかり思っていたが、今読むと、あちこちに強烈な毒がある。常に、筒井が一目おいていたことの意味が(これが昔不思議だったのだ)、今になってわかってきた。