ネットは核技術と同じくらい危ない分野
一戸 信哉氏が、MIAUは「社会派」的な色を薄めた方がよいのではないか?という提案をされている。
MIAUのような社会派の活動と、ビジネスや技術系の人たちとの接点は、なくはないのだけれども少ない。それはつまり「社会派」という色がつくことによって、なんとなく近寄りがたい雰囲気を人々が感じているからではないか。近寄りがたいというか、安易に参加してはいけないというか。なんとなくただよっている、ネットユーザたちの冷やかな反応にも、同じ根があるように感じる。
そこで僕は、MIAUはいきなりEFFなみのこわもてを目指すのではなくて、もう少しいろいろな層、たとえばソーシャルなサービスを提供している企業や個人なども、参加したりプレゼンしたり協賛したりできるような、もう少し緩やかな「場」も提供してみたらどうかと考えた。
でも「先進ユーザ」の会を作ったのであるから、「先進ユーザ」が妙な先入観を持たずに参加できることも、すごく大事なことだ。「先進ユーザ」には開発者、クリエータ、法律家、純粋なるユーザ、いろいろいるだろうが、それらを「先進ユーザ」というだけでつなげている団体は、まだ存在しない。そういうさまざまな関係者が集まる稀有な「場」としてのMIAUという意味も高めつつ、企業・個人その他からの資金的な支援も得て、「先進ユーザ」の意見を集約して主張する集団として成長していく。そういうやや迂遠な方法が、実は現実的なのではないか。
一理ある意見だと思う。今の段階では、参加者を増やすことは重要であり、そのためには「一般的な先進ユーザ」の目を意識することも必要だ。
しかし一方で疑問もある。この意見そのものというより、暗黙の前提となっている「社会派」と「ビジネスや技術系」という区分がそもそも成立するのだろうかということだ。
「社会派」という領域と「ビジネスや技術系」という領域が個別に存在していて、MIAUはその接点にある、というのが多くのユーザに共有される一般的な見方であることには同意する。MIAUが、その観点から自分たちの立ち位置を意識し、必要に応じて調整することは重要なことだと私も思う。
それは一般的な観点ではあるとは思うけど、一方で、ネットに関する技術やビジネスは本質的に政治的なものであるとも私には思える。
ちょうど核に関する技術みたいもので、たとえば画期的に小さな設備による原子力発電の方法を発明した人が、イランや北朝鮮に呼ばれてそれをレクチャーしに行ったりしたら「私は技術バカなんで、そういう難しいことはわかりません」では通らないだろう。核に関わっているなら、国際問題や軍事を意識しないでいたら研究もビジネスもできない。
ネットは、核技術のようなレベルで軍事力と特別深いつながりがあるわけではない。しかし、ネットは政治というものと直接つながっている。
政治において「情報の流れをコントロールすること」は非常に重要だ。重要だと言うより、政治の本質がそれだと言ってもいいと思う。そして、ネットは情報の流れを変えるものだ。政治と無関係でいられるわけがない。これについてはこれまでにも何度か書いている。
- 史上最大の「悪政の自由」を享受した権力システムの崩壊 - アンカテ
- 「信用して下さい」系メディアと「検証して下さい」系メディア - アンカテ
- 初音ミクに便乗して創発的権力論再び - アンカテ
- 日本のオバマになるべき人がもしいたら、間違いなく2ちゃんねらやってるだろうなという話 - アンカテ
- 陰謀論から談合論へ、そして「縁側の可能性」としての「フューチャリスト宣言」 - アンカテ
ネットに関わる人は、技術者もビジネスマンもユーザも「自分たちは核のように危ない領域に関わっている」という自覚が必要だと思う。
もちろん、その自覚をそのまま表現した方がいいか、猫をかぶって知らないふりをしていた方がいいか、それは状況次第でケースバイケースだ。
Winnyがいい例だけど、「情報の流れを今までのやり方ではコントロールできない」という状況に、強い危機感を持つ人はたくさんいる。今はまだ、そういう人の多くが、特定のプログラムやサービスを止めれば何とかなると思っているので、対立関係が明確になってないだけだ。そういう過渡的な状況の中でたまたま、「誰かが『社会派』をやってるけど、自分は『普通のネットユーザ』」みたいな錯覚が成立しているのだと思う。
これまで政治というのは特権階級の仕事と思われていたけど、これからはどちらかと言えば、政治と無縁のまま過ごせる方が特権階級で、庶民は、たとえば自分の仕事と家族と趣味を守りたい、というささやかな望みを持つだけでも政治に関わらざるを得ない。