「トレンド」に焦点を当てるのがギーク、「今」に焦点を当てるのがスーツ

Amazon の創業者 Jeff Bezos のインタビューの抄訳だが、ひとつひとつの言葉が非常に示唆に富んでいる。

問い続けるべきは、「この5〜10年で何が変わるのか?」ではなく、「この5〜10年で変化しないものがあるとしたら、それは何か?」なのだ。

そして、もう一つ変化しないものがある。「世界は見通しやすくなっていく」という傾向だ。これからも情報はより手に入れやすくなっていく。

特にこの二つの言葉が印象に残った。

アマゾンはネット関連の企業の中でも老舗であり、今より単年度の損益が重視されている時代に起業している。だから、将来を嘱望される一方で、現実的な数字がなかなか黒字化しないことが、問題にされてきた。「アマゾンは永遠の金食い虫で、そこに投資している連中はみんな騙されているんだ」みたいなトーンの記事を、昔はずいぶん見たような記憶がある。

何事も激しく変化する時代に、変化しないものはトレンドだ。

トレンドに着目していたら、どれだけ赤字が続いても、アマゾンの将来に心配はない。とにかくアマゾンは、ネットで本を売る会社の中で一番多くのユーザを獲得していて、それは必ず増えていく。シェアを保って、売り上げをあげていれば、ネットのユーザというのは増え続けているのだから、アマゾンの未来は確約されている。

ベゾスは、そんな風に考えていたのだろうか。

そう想像して、これはきっとギーク的な見方なんだろうなと思った。

ギークは何事も抽象化して微分してそのトレンドに着目する。トレンドしか見ない。トレンドの大波に乗っていれば、いつかは成功するはずだ。それ以外のことは些事である。そういう見方をするのがギークではないだろうか。

仮にアマゾンがどこかで資金がショートして倒産してしまっても、ベゾスはそれを自分の失敗とは思わないかもしれない。「ネットで本を売る」というトレンドに乗ったことは間違ってない。間違っているのは、そういう将来性に資金を出そうとしない出資者たちである。そんなふうに考えるのかも。

それに対して、スーツは「今」に注目する人なのではないだろうか。

いかにアマゾンに将来性があろうとも、現実的に資金が無ければ会社は倒産する。実際、アマゾンにもそういう厳しい状況はあったはずで、そこで駆け回って、当座の資金を調達してきた人がいたのかもしれない。そういうスーツがいたのかもしれない。

アマゾンがどうだったのかは知らないけど、多くのベンチャー企業で、このようなギークとスーツの役割分担はあると思う。

スーツも、自分の会社の将来性を口にする。未来に関して、場合によってはギークより多くしゃべる。でもスーツが焦点を合わせているのは、あくまで現在だ。スーツは、現在の為に未来を語る。

そう考えると、アップルのジョブズはスーツだ。彼は、今現在、何をアップルが提供できるかに焦点を当てている。ジョブズは、未来と過去からなりふりかまわず「現在」をかき集めてきて、ユーザに今すぐにできることを提示する。

トレンドをキャッチし、時にそれを作り出す彼の能力は天才的だ。でも、彼は自分の会社を通して、「今」を作り出す。

ベゾスは、そこまでアマゾンの「今」に執着はないし、「今」に焦点を合わせてない。彼はトレンドに注目して、トレンドをつかまえることを自分のアイデンティティとしている。S3とかEC2とかSimpleDBとかMechanical Turkとか、今は誰にも意味が理解できないけど、ジワジワと効そうなことをたくさんやっている。

トレンドに乗っていれば、「今」についてはそこそこにやっておけば、自然と会社は成長する。そういう考え方だと思う。

ペゾスのように「変化しないもの」つまり「トレンド」に焦点を当てるのがギークジョブズのように「今」に焦点を当てるのがスーツ、という分類基準はなかなかいいと自分では思ったけど、どうだろうか?

このモデルのいい所は、梅田望夫という人からひとつのロールモデルを切り出せる所だ。

ウェブ進化論」は、トレンドを「今」受け入れられる言葉にした本であり、「ウェブ時代をゆく」は、「今」若い人たちに言うべきことは何かということを梅田さんが考え抜いた結果である。

どちらも金儲けとは関係ないけど、根っからのスーツでなければできない仕事であり、質の高さや志の高さもスーツならではのものだと思う。

スーツにはスーツのロールモデルがあって然るべきだ

スーツとしての独創性とは、このあたりにヒントがあるんではないかと思います。