Chromeがソフトの拡張性を「こちら側」から「あちら側」に移す

コンピュータになじんでいる人と一般の人は、いろいろな所で感覚が違うものですが、これについてslashdot.jpに鋭い洞察がありました。

一般人の場合 GEEKの場合
機械を使う PCの内部を意識せず、目的の業務なり文書を仕上げること。 環境を自分にとって快適になるように自分のコントロール下に置くこと。
機械に使われる コマンド、URL等、自然言語にない意味不明な呪文を覚えされられること。 本来の目的と無関係な、環境構築や設定に労力を食われること。 カスタマイズできない、ハックできない ベンダー(または自社)お仕着せの環境を使わされること。

つまり、ギークはカスタマイズできる要素が多いソフトを好むのに対し、一般人はそれを嫌う傾向にあるということです。

ギークにとってカスタマイズしやすくて、しかも一般人にも使いやすいソフトも絶対に不可能ということではありませんが、普通は、あちら立てればこちら立たずの関係になってしまうものだと思います。

特に、拡張性というのは、開発者が想定してないような使い方をユーザが望むという前提があって必要とされるものです。

たとえば、Firefoxを“2ちゃんねる”ブラウザー化できる「bbs2chreader」というソフトがありますが、Firefoxの開発者が2ちゃんねるという日本ローカルの掲示板を知っていたからこういうソフトの開発が可能になったわけではありません。逆に、開発者は自分がWebの全てを知っているわけではなくて、世界中には自分の知らない様々なニーズがあると考えるから、こういうソフトを後付けできるような口をFirefoxに用意しておいたわけです。

ソフトに拡張性を持たせるというのは、タダでできることではなくて、これがある為にソフトの構造は複雑になるし、時に処理が遅くなったりバグやセキュリティーホールの温床になったります。また、「アドオン」というメニュー項目や関連する設定画面も必要になって、初心者にとっては、意味不明の余計な言葉やアイコンがあちこちの画面に出てくる、ということになります。

一般の人から見ると「開発者は我々のニーズを全て把握しておいてわかりやすく提示すべきで、ニーズが掴みきれないなら、その人はそのソフトを作るべきではない」という感じになるのでしょうか。

このジレンマは、ワープロ専用機とパソコンの時代からずっと続いているもので、おそらく、決定的な解が出てくることはないでしょう。

FirefoxIEの間にある争点も、この拡張性、カスタマイズ性をどう評価するかという点にあると思います。

それで、グーグルのChromeは、この両者の間に割って入って、何をしようとしているのか、Firefoxのような拡張性のあるブラウザをアーリーアダプタ層に提供しようとしているのか、IEが持っている「インターネット」というアイコンを奪い取ろうとしているのか、そこがよく見えてこない所ではないでしょうか。

私は、Chromeとは、拡張性を「こちら側」から「あちら側」に移すためのものではないかと思います。

つまり、「こちら側」では、拡張性を限定してむしろ IE を置き換えることを目指すものです。しかし、それがギークにとって不快なお仕着せの一律の環境を押しつけるものになるわけではなくて、「ギークの方は『あちら側』でご自由にカスタマイズしてご利用下さい」ということなのです。

Gmail Labsはグーグル内部の開発者しか提供できないもので、FacebookアプリケーションはAPIが外部に公開されているという違いはありますが、両方とも、多くの人が使う汎用的なWeb上のサービスに、一部の特殊なニーズや先鋭的な使い方をするユーザの為の機能を付加するものです。

つまり、Firefox=Gmail本体、Facebook本体であり、アドオン=Gmail Labs、Facebookアプリケーションというとことです。

このような意味での拡張性を「あちら側」に持たせようとすると、「こちら側」にはむしろ安定した一律の環境が必要になります。具体的には、JavaScriptの性能、強固なセキュリティ、安定性、標準への準拠というようなことが求められるわけで、そこが Chrome が提供しようとしているものだと思います。

Chrome が標準となって「こちら側」に安定した基盤が構築されれば、「あちら側」にずっと多様な環境を実現できます。

一般の人は、一律で安定したメジャーなサービスをそのまま使えばいいし、それで物足りない人は各種付加機能を使えます。それでも満足できない人は、PaaSサービスを使って、「あちら側」に自分用のサーバを立てればいいわけです。それらのサービスの多くは、APIで連携していいとこ取りで組み合わせることができるでしょう。


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