iPhoneの加速度を測る
iPhoneには加速度センサーがついていますが、ここで言いたいのはそれではなくて、iPhoneという現象そのものの加速度のことです。
初速が遅いけど加速度の高いランナーと、速度は速いけど一定のランナーが競争したら、距離にもよりますが、普通は加速度の高い方が勝ちます。iPhoneを現象として観測する時には、初速でなくて加速度を測らなくては意味がない。
iPhoneの加速度とは何かと言えば、連結可能な単機能アプリとこれを組み合わせて活用するノウハウが広まる速度です。それを象徴するようなエントリがありました。
radio SHARK 2(USB接続のAM/FMラジオチューナー)+iPodというのは、最強のラジオ環境だと個人的には思っている。しかし、人間とはまったく欲深いもので。 例えば、旅行や出張に出かけた時、自宅のパソコンに録音されているラジオ番組を聞きたくなったらどうするか。Macとネット環境があれば、「どこでもMy Mac」機能を使って自宅のパソコンにアクセス。録音したオーディオファイルを引っ張ってくることができる。
じゃあ、パソコンがない時は? iPhoneとSimplify Mediaというサービスを使えば、これがいとも簡単に実現できてしまうのだ。
radio SHARK 2はiPhoneではなく、パソコンにUSBで接続するAM/FMラジオチューナーです。これを使うと、ラジオ番組をiTunesに録音できます。そして、Simplify Mediaは、自分のパソコンのiTunesライブラリを、外出先からiPhone経由で聞くソフトです。
この二つの製品を組み合わせることで、自分の好きなラジオ番組をタイムシフトして聞くことができるという発見について書かれたエントリです。おそらく、Simplify Mediaの開発者も、こんな応用方法は思いつかないのではないでしょうか。
この組み合せ自体は、ごく一部のラジオ愛好家のみにしか意味が無いと思います。私もこれを真似しようとは思いませんでしたが、「Simplify Mediaというソフトにはそんな可能性があるのか」ということに驚かされました。つまり、自分が聞きたいマイナーな音源があったら、それをiTunesライブラリに入れる方法を考えれば、同じ方法でその音源をいつでもどこでも聞けるようになるわけです。
もう一つ、「iPhoneの加速度」を象徴してる思ったのが、OmniFocus for iPhoneというソフト。
これは、Mac用のOmniFocusというソフトのiPhone版ですが、iPhone版のみの独自の機能として「タスクに位置情報を持たせる」という機能があります。
for iPhoneにしかない機能といえば、画面下のアイコン部分にある左から2番目、Nearby 機能ですね。OnniFocus for iPhoneではContextsに位置情報をつけられて、GPSで現在地を教えてあげることによって、contextsが近い順に並び替えられて表示されるという機能です 。使っていて楽しいですし、モバイル機ならではの機能ですよね。
GPS によるロケーションベースのタスクの振り分けはやり始めるとクセになります。主立った店やロケーションを登録して、簡易な買い物リストもこれで作成できるようになりました。
基本的には、iPhone用のOmniFocusはMac版のサブセットなのですが、唯一iPhone版独自の機能であるGPS連動が、非常に便利なようです。
GPSをうまく使ったアプリとしては、タウン情報検索サイト30min.(サンゼロミニッツ)というサービスもあります。
30min.というサービスの iPhone app がとてもいいですね。クロールしたグルメ系の記事を店ごとにまとめて、いま居る地点に近いものを出してくれるというサービスですが、個々の記事のまとめかたもいいし、Safari に飛ばさないで元ページをブラウズできる仕組みも、とても使いやすいです。
情報源としてブログに重点を置いているようで、半年前のエントリに書いたことが具体化しているように感じました。
これまでは、知らない街で食事をすることになったら、とりあえず有名チェーンに入るというのが安全で手軽な方法だったのですが、これからは、とりあえず twitter で「このへんでおいしい所知らない?」と聞いてみれば、そういうタイプのブログ的な店を簡単に見つけられるようになるのかもしれません。
こういうGPSの活用方法は、他の開発者にとっても参考になり刺激を与えられるものでしょう。先行する成功事例をヒントにして、iPhoneのアプリの開発に参入してくる人も多いと思います。
さらに面白いのが「楽器としてのiPhone」。こちらは、iPhoneを楽器にするアプリを複数駆使して一曲演奏してみた動画です。
1:30あたりから、iPhoneを傾けることによって音が変化する機能を使っています。
もうひとつ、これはやや実用性には疑問があるものの、発想がよりアバンギャルドな PaklSound1 というソフト。
説明のブログエントリがこちらです。
また、このシーケンスは停めることができません。音を切りたいときにはiPhone本体のサウンドレベルを低くするか、終了させるか、雷ボタンでシーケンスレイヤーを初期状態に戻すしかない。
そして、何も保存できない。その刹那的かつストイックなところは、KAOSSILATORにも似ていますね。
コンセプトそのものは TENORI-ON という既存の製品のパクリのようですが、この大胆な割り切り方がすごい。
テクノロジーは技術者の手を離れた時に、そのテクノロジーの本来の可能性が開花するものだと私は考えています。技術者の仕事は、テクノロジーをその段階まで持っていくこと。
次の話は、開発者にとっての敷居を下げる仕組み。
これは、具体的なアプリやサービスではなくて、その基盤となる部分のソフトの話なので、プログラマでない方には意味がわからないかもしれません。
最近はあまりみなくなりましたが、ブログ以前には「こんにちは」と挨拶を表示する「ホームページ」がたくさんありました。朝見ると「おはようございます」、夜見ると「こんばんは」となるものです。あれは、プログラミングの経験の無い方が「ホームページ」を自力で立ち上げることに成功すると、かなりの確率で次にチャレンジしてみたくなるものです。
同じページで閲覧している時刻によって「こんにちは」と「こんばんは」を切り替えるようなページを作ってみたくなるのです。それでその次は、だいたい「流れる文字」。
PhoneGapなるソフトが出来たら、あれと同じような感じで「あなたはiPhoneを縦に持っていますね」「あなたはiPhoneを横に持ちかえましたね」という意味なく表示するページが流行るかもしれません。
つまり、サーバ側においたスクリプトから、閲覧者のiPhoneのハードウェアにアクセスするAPIです*1。
IPネットワーク網は非常に汎用的であるので、それに対するUIも汎用的でなくてはならない。汎用的であり、一般の人にも使えるようにわかりやすく安全でなければならない。
その為には、クライアントが固定的な顔を持っていてはいけない。顔のパーツはあらかじめ用意してあるが、表情はネットの向こう側から飛んでくる。
これが重要なのは、iPhoneのソフト/サービス開発をプログラミング以外に関心のある人が行なえるようになることです。
- 参入する為に必要な技術の敷居が下がり
- 今までと違うタイプの人が参入してきて
- 小さいけど具体的な成功例が蓄積され
- ユーザ側の活用ノウハウが広まっていく
というサイクルが早くも回りはじめているのを実感します。これが iPhone の加速度です。このエントリには、いろいろなタイプの人々が登場していますが、多種多様なタイプの人々が集まり相互作用を起こす場になりつつあると思います。