負けず嫌いの慈善

ワールドカップを見て思うことは、やはり一流の選手は皆負けず嫌いだと言うこと。そして、超一流の選手はだいたい負けず嫌いの程度の超一流。

そしておそらく、負けず嫌いの程度においては、超一流のサッカー選手にも負けない超超負けず嫌いのビル・ゲイツが慈善事業を始めることには、もっと注目すべきである。

これを「WEB2.0競争でGoogleYouTubeに負けることが見えてきてボロが出る前に逃亡したのだ」と見るのは違うと私は思う。もちろん、状況は不利だと思うし、株価に影響するからそれをそのまま言えなくても、ゲイツも同じように考えているとは思う。ただ、ゲイツには潤沢なキャッシュがあるのだから、それを使えば、いかに時代からはずれようともマイクロソフトを支えることはできる。長年蓄積した有形無形の資産をそういうふうに吐き出してしまう会社も多いから、ゲイツがそれをしたって、非難されることはないかもしれない。

しかし、ゲイツは自分の手で時代を順方向に回すことの面白さを知ってしまった人間であり、そういう選択肢は彼にはあり得ない。

時代を逆方向に回すのに金を使うより、順方向に速める方が面白い。その方法をもうひとつゲイツは見つけたのである。

今は、金の重力定数が増大している時代である。小石と小石が、地球と月くらいの引力で引き合う。金と金が引きあってぶつかりあって、自動的に大きな塊を作り、その塊が雪だるま式に成長していく。金自身がそういう力学を内包しているのだから、それに乗っかるだけですぐ金を稼げる。だから、大金持ちになることはちょっと前ほど難しいことではない。

誰もが、とは言えないが、ちょっと頭がよくてガッツがあって運がいい人間なら、簡単に金を稼ぐ。大金を稼ぐことは、もはやエキサイティングな事業ではないのだ。実際、金を稼ぐことで、ゲイツの後を追っている人間はたくさんいる。

これからエキサイティングでチャレンジングなのは、金を使うことである。ゲイツは、金を使う側の人間としてのパイオニアになりたかったのである。

ゲイツは、おそらく自分の金が無駄になったりルーズな使い方をされたり無意味な使われ方をされるのは我慢ならない。慈善をするとなったら、目標を決め、そこに向かって全力で邁進する組織を作りあげた上で、一円たりとも無駄にせず、自分の金をそこにつぎこむだろう。

もともと、大量の頭のいい人間を組織化することにおいて、たぐいまれなる才能がある人間が、彼の長年の経験を生かして、「金を使う側」の組織を組み立てるのだ。さらにゲイツは、LinuxAppleGoogleからたくさんのことを学んでいる。もちろん、マイクロソフトの経営は偉大な事業であり、そこからもたくさん学んだはずだ。でも、競争相手から学んだことで、事業の戦略上の要因から自社に適用できなかったことがいくつかあるだろう。今度彼が一から作る組織「マイクロソフト2.0」には、遠慮なく集団知オープンソースの方法論がゲイツなりのやり方で吟味された後に取り込まれるだろう。そういう組織が戦略的な慈善事業を効率的に遂行するのだ。

今、Web2.0バブルに浮かれている者のうち何人かは、ゲイツのように大金を稼いで、いつかそれを使う側に回る。その時はじめて、「しまった!ゲイツにしてやられた」と彼らは気がつくのだ。彼らの送る援助物資はゲイツの敷いた鉄道や道路で送られる。彼らが建てた学校にはゲイツによって命を救われた子供たちが通う。彼らの創設する財団は、全部ゲイツのそれから運営のノウハウを引き継ぐのだ。彼らは、自分がゲイツの手の平で踊らされていることに気がつくだろう。

もちろん、ゲイツと同じくらい負けず嫌いの彼らは、もっとよい金の使い道と使い方を工夫して、なんとかゲイツの上を行こうとするだろう。なんとかゲイツの見落した所から大きな穴を探して、ゲイツからも見放されていた人たちに援助の手を差しのべようとするだろう。

負けず嫌いのゲイツは、これから、そういう彼の未来の後継者と競争するのである。「後継者においしい所は残さない」それが、ゲイツの野心であり野望である。地球全体を見渡して、人類にとって真に有用な金の使い道を包括的に検討し、全くスキがなく間違いのない優先順位に従って、完璧な配分で金を使う。もちろん、ゲイツは彼の未来の後継者が自分と同じくらい頭がよいことを知っている。だから、ゲイツはこの競争がたいへんなものであること認識している。

でも、ゲイツは、未来の後継者に絶対に負けたくないだろう。どうしても、彼らがゲイツの後を追うしかないようにしたいだろう。ゲイツにとって慈善事業は、金持ちの道楽ではなくて命がけの真剣勝負なのだ。

これまで人類の歴史上で、こういうやり方で金が使われたことはない。これから「負けず嫌いの慈善」がどんな結果を起こすか楽しみである。

(追記)

これを書くのに参考にしたエントリーです。