人にぶつからずに電車から降りることができるロボットは作れるか?
詰めこまれた満員電車から降りるのは簡単で、流されていればよい。ガラガラの電車から降りるなら、ただ出入口の方へ歩くだけ。
難しいのは中くらいで、肩と肩が接することはないけど、前後左右全部に人がいるくらいの混み具合。そして、半分くらいの人が降りる時。
まず、自分と出入口の間に立っている人を見る。この人が降りるならば基本的にはその人の後についていけばよい。降りそうになければ、その人を避けて逆の方向に自分が進まないといけない。降りるか降りないか見ててわかる人も入れば、動き出す時までわからない、読みにくい人もいる。降りない場合に、自分から積極的に中ほどへ歩いて避ける人と、邪魔になっていると気づいてから避ける人と、ほとんど動かない人がいる。この分類ができるのはドアが開いてからのことが多い。それを読み違えていると、自分がよける方向とその人が逃げる方向が一致してぶつかりそうになる。降りるこちらを見て動きを決める人もいるが、そういう場合はむしろ自分のスタイルを早めに明示的に見せる方がうまくいく。そして、こういう複雑な相互作用が、1対1でなく、N対Nで同時発生する。
たとえば、障害物Aが自発的に避けようとするが障害物Bが動かないのでAが避ける方向を逆転した瞬間にできたスペースに降客Aが入ろうとした瞬間障害物Bが今さらのように動き出して降客Bがそれに気づいて気をきかせて反対側から進もうとした方向が障害物Aが逆転した方向と重なっていて障害物Aはいよいよ逃げ場を失い降客Cが見るにかねて場所を作るとその後を進んでいた降客Dが………
意識しないうちにこれくらいの範囲を視野に入れて自分の動きを決めている。
要するに自律的なエージェントが相手の動きに反応してネットワーク的に相互作用する系というのは、見かけよりもずっと複雑なのである。試しに、明日の電車で自分の視線を意識してみなさい。ものすごくややこしいことを無意識にやってるから。
それで、この文章の主題は実はロボットではなく、Web2.0である。
2.0はつけてもつけなくてもいいのだが、Webの中では、たくさんの人が視野に入りその多くが自分を見ており、そこに複雑な相互作用が起こっている。そして、その相互作用の複雑さは、意識しないと気がつかなくて、その挙動について勘違いしてしまうことが多い。
ネットの混み具合というのはだいたい中くらいで、ちょうど肩と肩が接することはないけど、前後左右全部に人がいるくらいである。電車と違うのは、いくら人が流入してきてもそれくらいの混み具合であることだ。そういう不思議なものの性質について、人類はまだ何も知らないのだと思う。
(昔のessa風に書いてみました)