世論の中のキャズム

経済に関する話の中に、ハイテク製品の導入カーブというものが出てきます。パソコンや携帯のように、それまでに存在しなかった製品がどのように普及していくかを示すカーブです。

Goodpic: ブログはキャズム(ハイテクの落とし穴)を越えてブレイクするのか?は、ブログを典型的なハイテク製品と見て、現在、テクノロジーライフサイクルのどこにいるのかという視点で分析したものです。

導入カーブは、基本的には山なりのなだらかな曲線になるわけですが、山が立ちあがる直前に「キャズム」というギャップがあるそうです。ブログはまさに今ここのフェーズにあってブログ自身が自己言及的にこのギャップをのりこえるツールとなるのでは?という大変鋭い視点が述べられています。

これはとても興味を引かれる観点ですが、私はこの記事では、この理論をちょっと違う所に適用したいと思っています。

このグラフは、横軸が時間軸ですが、ある時点において、ある政策に関する意見の分布を調査すると、やはりこういう曲線が現れると思います。例えば、「消費税を何%にすべきか」という設問で、横軸を税率にするのです。所得の高い人は消費税が30%とか40%くらいの高率になっても直接税が低い方がいいでしょうから、右はじに来ます。所得の低い人は、できる限り税率が低いことを望むので、左にきます。そして所得で中間層の人が、両者の中間で例えば20%くらいでピークを作ります。

ある程度、正確に情報が行きわたって(各自が利己的な判断をすれば)、このグラフは所得の分布に従う山なりの曲線になるはずです。

あるいは自衛隊イラク派遣について、「絶対反対」や「無条件で賛成」という人は少ないと思います。大半の人は、条件つき賛成になるでしょうから、その条件を無理に数値化してグラフの横軸にしたとします。50%賛成の人が一番多くてピークになって、70%賛成や30%賛成(70%反対)はもう少し少なくて裾野になって、絶対反対や絶対賛成はごく少数で両端に来ます。やはりこれと同じような山なりになると思います。

そして、この曲線に「キャズム」、つまり不連続なギャップはないか?と考えると、やはりあるような気がします。消費税だと現状維持の人が少なくなるような気がするし、イラク派遣だと10%反対、つまり非常に厳しい条件をつけてそれが満たされればOKという人より、何がなんでも絶対反対の方がずっと多いと、私は予想します。

というか、政治家の役目は世論にキャズムを作ることだと考えている政治家が多いような気がします。政党政治は、連続的に分布する世論をなるべく多くすくい取って、具体的な政策につなげることですから、自分の都合がいい所にキャズムを作って、なるべく多くの支持を得ようとするのが、政治家の本能となってるかもしれません。

それで、上記のようなグラフはある時点の世論分布を表したものですから、時間がたつにつれてグラフが動きます。問題はピークとキャズムが重なる時で、ピークは本来右へ行きたいけど、キャズムがあるためにそれ以上進めない、というような状況が起こります。つまり、キャズムによって世論が分裂したり、不安定な動きをしたりすることになります。

世論が動く時代には、キャズムは非常に害になるわけです。

現代はどんな政治的課題についても環境が激しく変化していますから、世論も大きく変動するのが常です。そういう時代には、むしろ政治家はキャズムを作らないようにすることを考えるべきです。キャズムの無いフラットな世論がなければ、世論の変動を政策転換にスムーズにつなげることはできません。その為には、ピンポンダッシュ的言論のような感情のガス抜き的部分も含めて、ネット特にブログを有効活用することが重要だと思います。