うまか棒と制御棒 -- 「ひろゆき」という職種

原子力発電では、火を燃やすことより燃やさないことの方が重要です。発火してしまえば、火は勝手に燃え続けます。というか何もしないと、一瞬で全ての燃料が燃えつきてしまいます。つまり、原子爆弾になってしまいます。原子力発電とは、その過程をできるだけゆっくりにして引きのばしているだけで、言わば「強力ブレーキ付き原子爆弾」なのです。

ネットビジネスもこれと似た性質があって、火をつけるには苦労しますが、いったん発火してしまったら、あとはほっておいても火が広がります。つまり、情報がどんどん集まりだして、その情報が金を産み、金がまた情報を集めます。

しかし、これは進み出すと止まらずに加速するプロセスですから、制御棒の無い原子力発電所と同じで、基本的にはメルトダウンするまで止まりません。

ですから、グローバルなネットビジネスも「ブレーキ」つまり「制御棒」が重要です。儲ける仕組みより儲けない仕組みが重要なのです。情報の流量に比例して金が入るようになっていると、メルトダウンしてしまいます。

Googleではナード主導の開発体制が「制御棒」の働きをしていましたが、それは意識的なものではなく体制としては不十分でした。そのため、株式公開が近づくにつれ、これが機能しなくなり、自分のパワーをコントロールできなくなりつつあります。

「制御棒」の機能は、最初から作りこんでおいて、それを恒常的にメンテナンスする人をアサインすることが必要です。それができているのが2ちゃんねるです。「ひろゆき」という職種が用意されていて、初代「ひろゆき」の西村氏はこの機能を十分に果たしてています。

ひろゆき」の仕事は、自社サイトが儲けすぎないようにすることで、トラフィックに比例して利益を産むようなビジネスモデルをつぶすことです。時には、儲かる仕組みを作ろうとする内部の優秀な人間を解雇するような、非常手段を取らなくてはならない場合もあります。そして、その代わりにもっと利益率の低いビジネスモデルによって、サイトを安定して運用するように、組織をリードすることです。

ひろゆき」には、日々のオペレーションだけでなく、「うちは儲からないんだぞ」という組織の強固な意思を代表する組織のシンボル、カリスマとしての役割も期待されます。そのためには、「断固としたやる気の無さ」が必要です。西村氏は、天性のものか、陰で努力してそのようなパーソナリティを作りあげたのか、強烈なメッセージを常時発信して、見事その責を果たしております。真偽のほどはわかりませんが、彼が部屋に入るだけで、回りの社員はいっぺんでダラーンとしてやる気を失なったという伝説もあります。

彼がいる限り2ちゃんねるは、サイトの規模がどれだけ拡大していっても、資本や注目を爆発的に集めることはなく、長期的に安定して運用されていくことでしょう。

ネットビジネスの時代は、群雄割拠というより、誰でもちょっと頭よかったら天下取れちゃう時代で、そういう人が次から次へと出て来るので、群雄順拠とでも言うべきでしょう。

しかし、天下取った後のことを考えているのは2ちゃんねるだけです。

ビジョンもなしにむやみに天下を取って、すぐに崩壊させて世界を不安定にするのはよくありません。西村氏のスタイルは彼独自のもので、他人には真似できないし真似する必要もありませんが、ネットで天下を取る気があるなら、どんな組織であっても、最初から「ひろゆき」という職種を用意しておくべきでしょう。