TUGUMI

TUGUMIをビデオで見た。予想に反してものすごくよかった。邦画嫌いのうちの奥さんも感激して「御法度と同じくらいよかった」などと言っている。おいおい、もう少しまともなホメ方はないのかよ、と思うがとにかくそれくらい(どれくらいだ!)よかった。

驚いたことは、つぐみもまりあも陽子ちゃんも犬も町も海岸も全てが本で読んだイメージのとおりだったこと。 *吉本ばなな*は、読む者の頭の中に強烈なイメージをこしらえる作家なので、これと一致する画を作るというのはたいへんなことだと思うが、これが不思議なことに、100%一致していた。私の想像力が異常に貧弱でほぼ枯渇しているに等しいという可能性もなくはないが、こんなことは初めての体験である。原作どおりの世界であり、それはしかも美しい映像であり、映画として充分なりたっていた。

見ながらもうひとつあきれたことがあって、私はこの本を読んですごく感激した記憶はあるのだが、筋がどうしても思いだせない。このビデオを借りる時に、「あれTUGUMIだ。これ一体どういう話だったっけ」としばらく考えたが、思いだせない。見始めて、これはかなり原作に忠実に作ってるなと思うのだが、どこまで見ても次に何が起こるのか思いだせない。とうとう見終って、「おかしいな。たしかあいつは穴に落ちたハズだが?」などと首をひねっているが、それでも思いだせない。結局、あの時は無意識で吸収していて意識をバイパスしていたんだな、という結論に達した。だから、はっきりとしたイメージがあるのにストーリーというものが出てこないんだ。文字を読んでそこまで強烈な体験をできる自分が偉いのか、そういうメッセージを送ってくるばななのほうが偉いのか?どちらかしらんが、どちらにせよたいしたものだと自分で思っている。

もうひとつ余談を言うと、めったに見ない邦画の中からどうやってそんないい映画を探しあてたかと言うと、これにはちょっとした秘密がある。プロデューサーが奥山和由だったからこれを選んだ。と言ってもこの人のことは何も知らないのだが、ちょっと前にワイドショーで松竹を追い出された2代目のバカ社長だとかで話題になっていた人ではないかと思う(違ってたらごめん)。だいたい日本でトラブルを起す人はいいものを作る。百発百中というわけにはいかないが、これを基準に選んで行くと4割目前のイチローよりずっといい打率になる。というか、話は逆でいいものを作る人は日本では受けいれられないのだ。悲しい選択基準と思えなくもないが、とりあえずこれで打率は稼げるし今日のようにホームランも出るので、ざまあみろと言って喜んで映画を見ている。