モロッコ・フェズの「聖なる音楽のフェスティバル」

ひょんなことから「Sound of the Soul」というDVDを観て、非常に感激したので、是非、これを紹介したいと思います。

これは、モロッコのフェズという旧都で行なわれた「聖なる音楽のフェスティバル」を記録したドキュメンタリーフィルムです。

まず、何より素晴しいのが、収録された音楽がどれもすごく良いこと。普通に言えば宗教音楽なのですが、雰囲気的にはワールドミュージックという感じが近いです。踊りたくなるような躍動的な曲もたくさんあります。

それから、イスラム教の国で行なわれたのにもかかわらず、フランス、イギリス、ポルトガルといったキリスト教国からのミュージシャンもたくさん参加していて、非常に場に溶け込んだ感じのリラックスしたパフォーマンスを見せていること。これ見たらイスラム教のイメージが変わります。

フェズにはユダヤ人も多く住んでいて、戦争中に国王がユダヤ人を保護したという歴史があるとのこと。英語のアナウンスを何か聞き間違えたのかと思って検索してみたら、確かにそういう記述のページを見つけました。

39年に始る「第二次世界大戦」に際してはスペインは中立を維持、フランス本国はドイツ軍の前に敗退した。フランスの海外植民地は本国に成立したドイツの傀儡政権「ヴィシー政府」に従う派と対独徹底抗戦を唱えるド・ゴール准将がイギリスで結成した「自由フランス」に従う派に分裂した。モロッコは前者である(註1)。ドイツはヴィシー政府を通じてモロッコに住むユダヤ人を迫害しようとしたが、これはムハンマド5世によって拒絶された。

まだ植民地であった時、宗主国であるフランスが敗退してドイツに圧力を受けるという難しい情勢の中で、このムハマンド5世という国王は、ドイツの意向に逆らう形でユダヤ人を保護したとのこと。勇気あるきわどい決断ですよね、これ。フィルムの中では、この時代に多くのユダヤ人が移り住み、今も、自分たちの宗教を守ったまま、イスラム教徒と共生している、これがフェズの伝統であるというような話がありました。

フェズのフェスティバルは、音楽だけではなく、宗教指導者によるディスカッションのようなことも行なわれていて、そこではタイから来たというお坊さんが発言していました。何の宗教であっても、篤い信仰を持った人は同じ道を歩んでいるんだ、という感じがあって、その共生のあり方に伝統のようなものを感じます。

「強い信仰心」と言うと、世界から閉じているイメージがあると思います。それイコール「テロ」という偏見まではいかなくても、独善的で自分と違うものを排除していくような感じ。私もそうですが、そういうイメージを持っている人が多いと思います。

それがこの「聖なる音楽のフェスティバル」においては、全く逆なんです。信仰はむしろオープンマインドの基盤となっている。みんな自分の信仰を音楽として表現しているのですが、そこにおいて誰もが自然につながれるという、そういう雰囲気があります。フェズという場全体にそれが漂っていて、その中にミュージシャンも観客もつつまれているように見えました。

これは是非、映像で感じていただきたいのですが、どんなミュージシャンが出ているかをざっと紹介します。

やはり地元モロッコのミュージシャンが一番多く、3組くらい出ていました。どのバンドも、パーカッション主体でバンジョーや琵琶のような弦楽器を加えた演奏に、詠唱のようなボーカルです。熱狂的ではないけどダンサブルで、実際ステージ上でも客席でもピョンピョンと跳ねるように踊っているおっさんがたくさんいます。腰の入ったいいリズムです。これが彼らにとっての sacred music なんですね。

イスラムの国の音楽はだいたいそういう雰囲気で、ポリリズムが入った複雑な曲をやるグループもあって、リズムが凄いんですが、ボーカルの人も声が伸びて歌がうまい。

アフガニスタンから来たバンドもあって、これは、ビートルズの Within you Without you のようなインド風味が若干加わります。地域的なものなんでしょうか。このグループは、どういうわけか細木和子のようなビジュアルのおばさんがボーカルだったのですが、この人も歌はうまかったです。

それに対して、キリスト教国の音楽は、静かな教会音楽のアカペラが多かったです。フランスのチームは綺麗な混成合唱のコーラスで、イングランドもそうだったのですがこちらはバリトンの人がいい声で渋かった。アイルランドから来たグループもいて、こっちはエンヤ風味の抜けるような女声合唱でした。リードボーカルの人は本当にきれいな声でした。

野外のステージなので、歌声の中に鳥の声が混じっていたりして、その雰囲気に独特の味わいがありました。

観客はイスラム風の民族衣装の人が多いんですが、そういうヨーロッパの音楽をきばらず楽しんで聞いていて、なんとも言えずいい雰囲気。この場所には「寛容」という共生あり方が、しっかり根付いているということを感じます。

ヨーロッパでも異色だったのがポルトガルの人で、ガットギター二本に濃い感じのおねえさんのボーカル。マイナーな曲でしかもこぶしを回すんで演歌っぽい感じ。でもやっぱり歌がうまくて声量も凄い。それでいて、「サンタマリア」とか歌っているので、やはりこれも sacred music なんですね。

それからもう一つ特に印象に残ったのが、モーリタニアのグループで、若い女性のパーカッションの人がいて、不思議なパフォーマンスをやるんです。コンガのようなものを叩きながら、合間に、お化粧をするような仕草をする。叩いて口紅をぬり、叩いてアイシャドーをぬる、という動作を交互にやりながら、手鏡を見てニッコリする。それを演奏しながらパントマイムで表現しているんです。

これがどういう意味なのかはわかりませんでしたが、この女性の仕草がすごくチャーミングでした。女性が女性であること自体に喜びを感じて生きていて、その生き方が社会の中にきちんと受け入れられていることを感じました。そのグループの人がインタビューでそれっぽいことを言っていたような気がするんですが、もう一つヒアリングに自信が無いです。でも、映像で見た印象は強烈でした。

他にもアメリカから来た人が賑やかなディキーランドジャズをやるし、ガーナとフランスの混成チームが軽いポップスっぽいノリの曲(リチャード・ボナみたいなアフリカ風味の融合したもの)をやるわで、本当に盛り沢山。

ということで、これはもう、ものすごくおすすめなんですが、残念ながらアマゾンとかの普通の流通ルートにはのってないようです。

ここで買うことができそうですが、私は未確認です。

あと、これもまだ読んでないのですが、このフィルムの監督のインタビューがありました。

最後に、この中である人が言っていた言葉を自分用のメモとして記録しておきたいんですが、「spirituality is awakening one another」。

一日一チベットリンクダライ・ラマ法王とチベット