人相の悪い男の時代

食中毒事件を起こした雪印の社長は、貧相なくせに随分横柄でなかなか人を不愉快にさせてくれる。どうみても、こいつ本音では「俺のせいじゃない」と思っている。じゃあ誰のせいなんだと言うと「誰だか知らんがそういう些事はシモジモの者が適当にやればよい」とか言いそうで、じゃあお前の仕事はなんなんだと言うと、おそらく財界活動やら社内の派閥抗争やひょっとして政治遊びなど、一切生産性のないことを休みもなくやっている。トップがそんなことで仕事は進むのかと思うのだが、だいたいこういう会社では機能別に形骸化した組織がきっちりできていて、エラい人が技術的なことに口を出したりするとかえって嫌われたりするものだ。

食中毒の原因は、毎日洗うべきバルブをほとんど洗わないで、ベッタリ黄色くなってたというおそるべきものだが、この会社、バルブも放置するが組織も75年間放置して、バイ菌が繁殖しすぎてしまった。組織も定期的に消毒しないと腐ってくるもので、ああいう人相の悪い男が権力を持ってしまう。

こういうニュースと並行して、私は1000年もの間きちんと機能し続けた組織の話を読んでいる。 *塩野七生*さんの「海の都の物語」だ。いきなり「ヴェネチア」などと言われても、そもそもそれが何処にあるのか見当もつかない人間でも、たいへん面白く読める。

この国は、1000年間ずっと政権交代や革命やクーデターなし(未遂が2件)でやってきたという国で、歴史オンチの私は知らなかったが、ルネッサンス前後ではヨーロッパ随一の経済大国だったそうだ。 50年前に相当おおがかりな消毒作業をしたのに、あちこち腐りはじめたこの国で、今、これを読むとまるでSFのようだ。政権交代がないと言うことは、自力でシステムを改変するだけのヴィヴィッドな感性を保ち続けたと言うことだから。

ただ、原則は簡単である。原則その1。政府はインフラを作る。ヴェネチアはアジアとの交易が主産業なので、最も必要なインフラは定期的にエジプトなどと往復する船である。地中海は天候的には多少楽だが、海賊は出るはトルコは攻めてくるはスペインやフランスは張りあってくるはで、これがなかなか大変なことだったらしい。ヴェネチアはどれだけのコスト(人的な損失も含め)を払ってでも、必死でこのインフラを守り続けた。

原則その2。インフラは民間が自由競争で使う。その定期船に荷物を載せて売買するのは、民間の貿易商人である。これも徹底しており、同じ時代に他の国では、政府を仕切る貴族がそのまま商売をしたのに(ということはどこかの国と同じように政治力で高コスト低能率を押しとおす)、ベネチアでは、中小(というかベンチャー)の業者が主体であったので、非常に市場の受けがよかった。それだけ大変な思いをして作ったインフラを気前よく民間に渡すというのがポイントだ。

他にもいろいろ現代に通じる知恵がいっぱいつまっているが、それはそのうち書きます。