世界で一番ググることがうまい人たちの集団
私はたくさんGoogleについて書いていますが、「もしGoogleがコケたらどうするんだ?」と思う人もいるかもしれません。戦国時代のIT業界ですから、何が起こるかわからない。磐石に見えるGoogleも、ある日突然、競争力を失ない没落してしまうかもしれません。
万が一そうなった時に、このブログのアーカイブ見た人は、「この人はGoogle,Googleって、そればっかで、よほど先見の明がない人だなあ」と思われてしまうかもしれません。
その日の為に、あらかじめ言い訳しておくと、Googleに関する記事の大半は、別にGoogleが無くなっても有効です。ネットの特性として、一人勝ちになりやすい特性がありますから、Googleを倒す会社が出て来たら、ここでGoogleについて言っていることは、おそらくその会社についてもほぼ同じように成り立ちます。
あるいは、知らん顔して「Google」という言葉を「創発的権力」に置きかえてしまえば、だいたいOK。
しかし、そうは言ってもGoogleという会社は、当分の間、「Google様」として怪獣大戦争を勝ち続けると思っています。私がそう考える理由について、技術的な観点から明解に説明してあるのが、次のエントリーです。
この記事は、私にはすごくわかりやすい説明でしたが、内容がちょっと専門的すぎるので、少し噛みくだきつつ補足させていただきたいと思います。
まず最初に、一万人の人間をなるべく具体的に想像してみてください。大企業にいる人は自分の会社の全社員、小さな自治体に住んでいる人はその全住民、あるいは母校の卒業生で言うと何年分になるかとか?
Googleは、サーバー台数1万超の分散システムを運用しているわけですが、あなたが今想像した人間の数だけのコンピュータを使って、ひとつのシステムを動かしているわけです。一台のパソコンに見える一万台のパソコンを、Googleだけが所有しています。
それに対して、普通のシステムで言う「分散処理」は、数台から数十台です。従業員100人の会社の管理と、従業員10000人の会社の管理では、相当違うと思いますが、同じ分散処理と言っても、マシン100台と一万台では、根本的に違います。
だから、Googleが持っている「分散処理」の技術は、独自なものと言うより、世界にひとつしかないものなのです。Googleが、他の会社より進んでいるというレベルではなくて、Googleだけが持っていて、他の会社に無い技術があるということです。
Yahooやマイクロソフトも、これからは同じくらいの台数で運用するでしょうが、年季が違います。Googleのことを「世界最高峰の頭脳集団」とか言いますが、その最高の頭脳が、数年の間、これをどう使ったらいいか、ずっと研究していたのです。上記のエントリーで紹介されている、MapReduce、GFSという技術や、Sawzallというプログラミング言語が、その成果だと思います。
惜しげもなく公開されているので、私も早速ダウンロードしてそれを勉強してみようと思いましたが、残念ながら、それを使うことはできませんでした。使用条件が厳しすぎるのです。READMEを見たら次のように書いてありました。
「このソフトはどなたでも目的を問わず自由にご利用できます。ただし、ご利用にあたってはPCを一万台ほど自分でご用意下さい」
というのは嘘なんですが(笑)、本当は上記の技術は論文だけでコードまでは公開されてないですが、公開されるとしたら、おそらくそう書いてあるでしょう。数台で動かして意味があるようなものではなくて、マシンを一万台用意しないとまともには使えないものです。
今の所、Sawzallというプログラミング言語を勉強できるのは、Googleの中の人だけなのです。彼らと私では、プログラミングのスキルが現状でも相当違うと思いますが、その差は広がる一方です。そして、どんなに私が頑張ろうと、その差は縮めることができません。なぜなら、私はマシンを所有してなくて、彼らは所有しているからです。
プログラミングというのは、理論だけではわからない部分がたくさんあります。コードを書いて動かして結果を見て直す。それを何度も繰り返して体で覚えることがたくさんあります。
ある特殊な分野に限っては、それができる環境を、世界で唯一、Googleだけが持っているわけです。
上記エントリを書かれた江渡浩一郎さんは、Googleは、これらの技術を公開して、Ningのような、本当の意味で革新的な何かをやろうとしていると予想されています。そうなれば、私にも勉強できるでしょうが、そうなるかどうかはわかりません。
もし、それを公開することで、世界中のユーザをこき使って、面白いシステムを作らせることができそうなら、Googleはそれを公開するでしょうし、その見込みが立たなければ公開しないでしょう。それが彼らの一番重要な資産であって、それを最大限活用する方法を、今Googleは一生懸命考えているはずです。
ひょっとしたら、「Web2.0」はその為にGoogleが仕掛けた史上最大の陰謀で、これで洗脳された我々は、Googleの為に、せっせとコードを書きデータ入力を行なうことになっているのかもしれません。(←これはジョークです。何かと陰謀論の季節なので)
ともかく、世界中のWEBページ全部(とGMail全部とGoogle XXX全部)が詰まった、一台のパソコン(に見える一万台のパソコン)があって、その使い方を勉強できるのは、Google社員だけです。使い方を勉強しながら、実データでシミュレーションをして、どういうシステムを作ったら、どういうサービスができるか研究しています。
実は、「世界最高峰の頭脳集団」と言っても、案外、ハズレも多いかもしれません。役に立たない提案ばかりしているのが結構いるかもしれません。でも、それでいいんです。ダメな提案は、その一台のパソコン(に見える一万台のパソコン)でチェックすることができます。
Googleの発表するシステムがめったにはずれないのは、単に、事前チェックでうまくはじいているからで、内情を知ってみれば、「なんだ、こんなバカばっかりか。うちだって、そのパソコンがあれば、事前チェックで、駄目社員を見分けてクビにできるよ」ということになるのかもしれない。でも、「だからその一台のパソコン(に見える一万台のパソコン)さえあればいいんだから、うちにそれを譲ってくれ」と言っても、これは譲ってくれない。ひょっとしたら、(江渡さんの予想通り)その一部をレンタルしてくれるかもしれないけど、その時は、「ユーザが価値を付加する」とか言って、思いきり働かされる。
もちろん、シミュレーションでできることは限られているので、いかにその一台のパソコン(に見える一万台のパソコン)があっても、事前に分かることはごく一部かもしれません。しかし、彼らには、実データがあってそれを自由に使える。しかも、MapReduce、GFS、Sawzall等の(たぶん他にも未公開のいいものがたくさんある)、その実データを使いやすくするツールが揃っている。それがあれば、多少バカがいても、そんな惨めな失敗はしないでしょう。
だから、多少ダメ社員が混じってたりダメ管理職がいたって、Googleはなんとかなるんです(でも実際にはやっぱりいないんだろうなあ)。
そもそも、「ググる」というのは、やり方によっては情報の宝庫です。普通のパソコンで外から使ってもそうなんだから、「ググる」専門の一台のパソコン(に見える一万台のパソコン)を中から使ったら、どれだけの知恵が出てくるかわかりません。