戦略的思考と人脈的思考と黒船
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この、全く性質が違う二つの事件を見て、共通に思うことがある。
それは「戦略の無さ」だ。
どちらも、こういう危機が起こることは数年前に予想ができたはずのことなのに、その危機に対してどう対応すべきか事前に考えた様子が全く見えない。事前に考えた戦略が不十分だったということではなく、全く戦略が無いまま右往左往しているように私には見えてしまう。
日本の企業は、大きい所も小さい所も、良心的な経営をしている所もそうでない所も、戦略というものがスッポリ抜けている気がする。
そういう企業の経営者は何をしているのかと言うと、人脈を維持しているのではないだろうか。つまり、一般的に経営の中で「戦略」というものが占める位置に「人脈」というものがあるのではないだろうか。
この記事によると、「日経BP社の辣腕副社長だった方が、今年の6月からオリンパスの社外取締役になっている」そうだ。
オリンパスのスキャンダルは、不思議なほど報道が少ない。たとえば、不二家やライブドアが叩かれた時には、面白おかしい空想的なストーリーに基づく報道がたくさんあった。
少なくとも今のところ、こういう形で扱われていないのを見ると、オリンパスの「人脈的思考」は有効であり、「戦略的思考」の不足を補っているのかもしれない。
単に特定の一人の報道機関OBを受けいれた、ということではなく、歴代の経営者が長年にわたって幅広い人脈的つながりを維持してきた結果であり、それは「人脈的思考」とでも呼ぶべき高度で複雑なノウハウなのだと思う。
戦略とは、自分でコントロールできない対象をどう扱うか考えることだ。コントロールできない対象と自社の間に、適切な調停者を用意することができるなら、人脈は戦略の代わりになる。ただし、戦略的に考える人との人脈ではだめだ。それではいざという時に戦略的に切られてしまうので、人脈的に考える人との人脈でないといけない。そういう備えをするには自分も「人脈的思考」をマスターしないといけない。
海外では戦略的思考の持ち主が良い経営者とされるように、日本では人脈的思考ができる人が優秀な経営者だったのだろう。そして、人脈的思考の為には、意図的に戦略的思考を封印しなくてはいけない。だから、戦略に欠けた経営者が多いように見えるのだろう。
そして、そういう「人脈的思考」が通用しない事態のことを「黒船」と呼んでいるのではないだろうか。
戦略的思考による経営と人脈的思考による経営とどちらが優れているとは一概には言えない。ただ、戦略的思考の限界について戦略的に考えることはできるが、人脈的思考の限界について人脈的に考えることはできない。
自分が日常的に使っている方法論の限界について考えるために、その慣れ親しんだ思考方法から脱却しなければいけない、という点において人脈的思考には問題がある。
これからも「黒船」がどんどんやってくるけど、この黒船にどう対処するかということは、「人脈的思考」でなく「戦略的思考」で考えなくてはいけないと私は思う。