iPhoneの自由とオープンさは最上級でなくて常に比較級
iPhoneがオープンで自由なプラットフォームであるかどうかということにはいろいろ議論がある。
たとえば、ここで指摘されているようにFSF的観点から言ったら、全く自由とは言えない。
しかし、これまでサードパーティやユーザに開放されて無かった所が開放されているという側面もある。それを指摘しているのが、このエントリ。
今までの携帯電話って、基本的に「着信機能」についてはサードパーティーに開放されてなかったのよね。
この部分を全部面倒見てくれるのがPush Notification Service。ポーリングで疑似待ち受けなのは同じなんだけど、システムレベルで一本化してサポートしてくれるのがポイント。 サーバ側から端末へ通知を送信する場合はAppleの通知サービスへ通知内容を登録。待ち受けアプリ側は通知の着信時に起動するアプリを登録しとけば、バックグラウンドでシステムがポーリングしてAppleのサーバからメッセージを取ってきて、処理すべきアプリを起動して投げてくれると。たぶんこんなイメージ。
とにかく重要なのは、サードパーパーティのアプリに対して「着信機能」をシステムレベルで開放してくれるってこと。 ここから広がる可能性は今までの携帯電話とは比較にならないと思うんだけど。
でもこの仕組みの一番のえげつなさは、音声通話とパケット通信以外のサービスをキャリアに関係なく自分で実装できちゃうっていうこと。
yomoyomoさんの記事にあるLinuxベースのオープンソース携帯電話やGoogleのアンドロイドは、おそらくアプリのインストールという面ではApp StoreにコントロールされているiPhoneより自由になると思う。しかしこれをどこかのキャリアが採用したとしても、「着信機能」がiPhoneのレベルで開放されるかどうかはわからない。
他に、通信経路がユーザの選択にまかされている所も、iPhoneの特色だと思う。
これは長いけど是非全文熟読していただきたい重要なエントリなのだが、ここでは、その一部の論点だけ取りあげる。
それは、「契約者固有ID」を活用しようと考える所に、キャリアの限界が見えるということだ。
「契約者固有ID」は、勝手サイトを作る側から見たら便利なものだけど、これを信頼できるのは、キャリアの管理するアドレスから送られてきた時だけだ。だから、これに依存したサイトでは、ユーザがインターネットに接続する手段を、キャリア経由の通信に限定する必要がある。そういうサイトが広まることはキャリアにとっては良いことだ。たとえ端末に無線LANのような他の手段が用意されていても、そのサイトを使う為には、キャリアの回線を使う必要が出てくるからだ。
つまり、ネット接続の手段の選択肢を狭めることはキャリアのビジネスモデルの基本で、キャリアからiPhoneのような製品が出てきたとしても、ここは譲れないだろう。
アップルにはそういう意図はない。キャリアとの交渉の結果としてキャリアの意向を部分的に飲むことはあるだろうが、iPhoneのアプリは、長期的には通信手段を意識せずに使えるものになっていくはずだ。
iPhoneにはいろいろ不自由があって、世界一自由でオープンなプラットフォームとはとても言えない。
しかし、iPhoneの中の自由と不自由のポートフォリオは、計算されたものであり状況に応じて変化していけるものだ。金になって他に現実的な選択肢が無い所では、アップルはユーザに不自由を強いて金を吐き出させる。金にならない所では、ユーザに自由を与えサードパーティに競わせる。
iPhoneは、「着信機能」や「通信手段の選択」のような他社に真似できない重要なポイントにおいて自由でオープンになっている。そこには多くのサードパーティが参入して、競合しながら新しい応用を切り開いていくだろう。
短期的には、blog.Winding-life.netさんがおっしゃるように「着信機能」の活用から新しいアプリが生まれるだろうし、長期的には、次世代の無線技術の活用において、アップルだけが「管理されてない基地局」を認めるフリーハンドを持つ。たとえば、FONを支援して、キャリアと手を切る(と言って脅す)というオプションがあるだろう。
そして、この自由の度合いをジョブズは意識的にコントロールしていくつもりだと私は思う。少しづつ戦略的に自由を拡大していく。ダウンロード音楽販売の非DRM化も同じ戦略と見ることができる。最終的には完全にオープンソースで完全に自由なプラットフォームになるのだが、セルゲイ・ブブカのように*1そこに到達する時期を意識的に遅らせるのだ。それによってアップルは、長期的にbestでないけどbetterな選択であり続け、えげつなく金を儲けていくのだと思う。
ネットが負けるほうに賭けるのは愚かだ。なぜならそれは、 人間の創意工夫と創造性の敗北に賭けることだから。── エリック・シュミット
ネットが負けるほうに賭けると損をするのは確実だ。でも、ネットの勝つほうに賭けてどうやって儲けるのかは、まだまだ工夫の余地がある。ネットの勝利が具体化する時、常にそこにはジョブズが先回りして立っていて金を請求してくるような気がする。見物料だと思えば腹も立たないけど、ちょっと高い気もするんだよね。