予告.inをSaaSワールドの予告として見る

まず予告inについてのこの3つのエントリは必読。

個人やこういった小さい会社でやる分には、素早く、すぐにリリースして、改善していくことができます。

しかしその分、クオリティに問題があったり、対応がこなれていない可能性もあります。全部を人力でチェックするほどのコストもかけられないし、そもそも人的リソースが足りない。

国家が数億かけてやるものとは、そもそも性質が違うんですよね。意外に思うかもしれませんが、彼らの作るものが無駄だとは思っていません。

ネットというかWeb2.0とかいわれる世界は、実はそういうアイデアで溢れています。 理想が100だとしたら、100を作るのには100のコストが掛かるんだけど、 50まででいいなら2〜3のコストで出来ちゃうかもよ、という感じです。 その 「100掛けて100を作る几帳面さ」 ではないところにネットの凄さがあるのです。

「時給5000万円」のWeb的なものと、「予算数億円」のIT的なものは違う。

プログラムの部分も違うし、ハード等のインフラの考え方も違うし、何より運用をどうするかが違う。それによって、できることが違ってきます。

ユーザは、これからケースバイケースでどちらを選ぶかを賢く選択しなくてはなりません。

「100のうち50」でいいと言うと、大半のユーザにとっては「ほとんど全部」なんですね。

たとえば、あなたの会社のパソコンに誰かがイタズラをして、MS-Officeをアンインストールして、代わりに「100のうち50」のExcelやWordをインストールしておいたとしたら、あなたは気がつきますか?

たぶん、「100のうち50」のレベルでExcelを使っている人は、相当なパワーユーザです。職場では「Excelの達人」とか呼ばれて、「困ったことがあったらとりあえずあいつに聞け」と言われているような人で、ほとんどユーザはそれ以下でしょう。

だからMS-Officeは「100のうち50」で充分。

でも、銀行のオンラインシステムとか鉄道の運行システムとか火星探査機のコントロールシステムはそうじゃない。明確に100無いと困るシステムもあります。そういうシステムでは100のうち80くらいは、素人には何でそんなものが必要なのか到底理解できないような機能ですけど、やっぱり100全部揃えてもらえないと困る。

「100のうち50」でいいものと、もうちょっとレベル上げて「100のうち80」くらいでいいものと「100のうち99.9」は必要なものがあって、この3つはたぶん、そんなに苦労なく見分けられます。

そして、「100のうち80」と「100のうち99.9」の間が微妙。

ここに本当に微妙な領域がある。

予告in」は、その微妙な領域を「見える化」したんだと思います。

予告in」はできた瞬間に「100のうち50」で、そのままボランティア的に運用していけば「100のうち80」くらいには到達する。

でも、それ以上には行きません。その上を目指すとすごくお金がかかる。

そして、大半の企業のシステムは、この微妙な領域にあります。

もうすぐSaaSと言って、予告inみたいなシステムが、(企業にとっては)タダ同然で使えるようになってくる。その時、SaaSを使うか、予算数億、数十億かけて「ちゃんとした」システムを使うか。すごく微妙で難しい選択を迫られる。

SaaSという言葉もバズワード化してるんで、いろいろなSaaSが出てくると思いますが、本当にインパクトがあるのは、予告inと似たようなSaaSだと思います。ここではそういうのをSaaSと呼びます。

つまり「手持ちの材料ですぐできることをとりあえずやってみました。2時間でできちゃったけど、案外、実用的かもしれません」みたいな感じ。

使う側の工夫次第では、本当に実用的なシステムになるかもしれない。でも、否定的な目で検証したら、「あれが足りない」「これが足りない」といろいろ問題が見えてくる。

実に微妙です。

実に微妙で難しい判断だけど、ここで物凄い金額の差が出てくる。

ユーザの方も、あらゆる消費行動において、SaaSを使っている会社を選ぶか、ITを使っている会社を選ぶか、微妙な選択がつきまとう。

これは、業務の性質でなくマインドの違いになると思います。

できることあるなら、ちょっとがんばってみたいなーと思っているのです。

僕らはしょせん、少しでもいいインターネットになればなあ、くらいしか考えていないのです。そこに、少しのユーモアを持って楽しくできれば幸せなんです。ユーモアは大事。笑わないと世界は変えられない。(余談だけど、はまちちゃんの作った予告.outとかはその意味ですごいステキだと思う)

あんな悲しい事件がもう起こらないように、少しでも何か出来たらいいなあ。

私は正直言って、もうちょっと皮肉っぽい読みとり方をしていました。やっぱり古い世代なのかもしれません。

でも確かに、こういうマインドで物事に取り組んでいけば、ほとんどのことに、SaaS的な選択肢、予告in的な選択肢があると思います。

例えば、掲示板等のCGMサービス提供業者にはフィードの提供を義務化する。ついでにpingを飛ばすのも義務化して、モバゲーのアレ並の監視センターを立てれば、けっこうな精度で犯罪予告を瞬時に察知できるシステムができそうだ。「学校裏サイトチェッカー」のチェックも自動化しやすくなるだろうし、「予告.in」のカバー範囲も強化できる。一石三鳥。

犯罪予告の問題には、IT的なシステムを作るより、この「フィードの提供を義務化する」っていうのが、筋のいい考えだと思います。

これが国にしかできないことで、これさえあればSaaS的な解決策が、自然に湧いて出てくる。予告inのような「100のうち80」的なシステムが他にもたくさんできて、互いに補いあって限りなく100に近づいてきます。

逆にそういう形にしないとあちこちに盲点が出てくるでしょう。

ついでにちょっと余談を言えば、ここで言っている「SaaS的」と「IT的」っていうのは、遊牧民と農耕民の違いのようなものだと思います。

農耕して食ってくには、地面の占有というのは非常に重要な概念で、社会のなりたちの基本です。でも、遊牧民にとってはそうじゃない。どこかに定住しろっていうのは無理難題。

でも、遊牧民と農耕民はDNAが違うわけではありません。どちらも、与えられた環境に正しく適応しているだけ。おそらく、気候変動か何かで環境が変われば、遊牧民が農耕民になったりその逆が簡単に起こる。

現代人にとっては、「与えられた環境」とは情報の環境のことで、これまでの情報技術が作り出す環境はITに適していてITが重要だった。つまり、地面の境界をしっかり決めて、おのおのが境界の内部に責任を持ってしっかり耕すこと。それがないと社会全体が回らない。

今はもう、そうじゃないんです。みんなで境界を越えて馬にのって駆け回らないと、社会が回らない。

だから、いろんなことに対して「できることあるなら、ちょっとがんばってみたいなー」というマインドで、SaaS的な解決を探っていかないといけないと私は思います。

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