情報を非公開にするのは意識的な経営判断であるべきだ
の続きをほんの少しだけ現実的に考えてみるテスト。
もちろん、全てを公開するというのは非現実的だけど、原則公開で一部非公開ならなんとか可能だと思う。そこで、非公開を統制付きで行なったらどうだろうか。
つまり、下っぱには議事録やチャットを非公開にする権限がない。業務遂行上どうしても隠さなきゃなんないことは出てくるけど、そういう時は上司の決済をもらわないと非公開にできない。そして、その非公開にする範囲の大きさに比例して、もっと偉い人の決済がいる。チャットの中で一つか二つの発言を隠すくらいなら課長の承認でいいけど、10分や20分にわたる長いやりとりを全部伏せようと思ったら、部長のハンコが必要になる。議事録を隠すなんて場合には、ラインの中ではなくて総務かどこかの専門の部署の許可をもらう必要がある。
「誰が何を非公開にできるか」という判断基準は全部文書化されていて、その決断は全部記録される。そして、半期に一度、外部の監査を受ける。監査法人か何かが、非公開にした会話や伝票の記録をチェックして、その基準に該当しているかをチェックする。もし、違反していて、隠す必要のないことを隠しているのが見つかったら、監査報告できちっと報告され、それが多すぎる部署があると、そこの責任者がペナルティを受ける。
そしてさらに、この隠す為の判断基準と監査するシステムをチェックする公的機関があって、ISO何とかみたいな基準をクリアしたと認定してくれる。
そういう「隠しごとの無い会社」のお墨付きを得ることは、強力な企業イメージアップになるのではないだろうか。
たとえば、環境問題に強い関心がある消費者にとって、ISO 14000を取得しているけど実態が隠されていてもうひとつよくわからん企業より、全てがガラス張りになっている企業の製品の方が安心して選択できると思う。
コンテンツクリエイターの中にも、普通の商用利用は拒否するけど、認定ガラス張り企業になら自分の作品を預けてもいいという人もいるかもしれない。
クリエイティブコモンズの延長線上に、「認定ガラス張り企業に限り事前の許諾無しで自分の作品で商売していいけど、それが利益になったら歩合で利用料下さいね」というようなライセンスを作って、それでネットに公開することもできるだろう。儲かった時に事後で精算するなんて、普通の企業相手にやったらトラブルの元だけど、伝票まで原則公開であれば売上はハッキリしているから揉めることはない。
ひょっとしたら「ガラス張り認定」を受けることによって、ネットの中から膨大なコンテンツをよりどりみどりで選んで再利用できるようになるのかもしれない。
う〜む、やっぱり非現実的になってしまったかな。
しかし、今は「情報を隠す」ということによるリスクやコストは全く考慮されてない。公開する場合だけリスクやコストが厳しくチェックされて、公開は損だとみなされる。企業活動がITに依存する割合は増大しているが、情報というのは(少なくともネットの中では)公開して共有する方が自然であり、コストがかからない。「隠す」ためには何か余計なことをする必要があって、そのコストは年々増大しているはずだ。
たとえば、会議をビデオに取って社内で共有しようとする場合、公開企業であればYouTubeをタダで利用することができる。隠すならば自前で動画配信システムを構築しなくてはいけない。そもそもネットに公開した文書は、グーグルがページランクで重要度を採点して検索するとその順番に表示してくれる。これもイントラネットの中でやるには金がかかるし、ページランクの正確性も、外部の人からのリンクも込みで算定した方が高いはずだ。
だから、少なくとも「何も考えずに何も調査せずに非公開」というのは通用しなくなる。公開か非公開か、きちんと両方のコストとリスクを分析して決断することが必要になる。ソフトウエア企業がオープンソースか非公開かを意識的に決断することが多くなってきているようなものだ。
もう少ししたら、企業の中で情報の公開/非公開の決断は、重要な経営判断のひとつとみなされるだろう。特に、部分的にこれまで隠してきた情報を公開する企業が出てきはじめた時には、それは競争になる。隣接する競合企業が公開している情報を、自分の会社は公開できないとしたら、相当不利になってしまう。
こういうものは、その時になってあわててもだめだ。今のうちから、公開に向けて布石を打って、体制やシステムを整えていくべきではないだろうか。