小田中直樹氏の『自由と保障』書評


こんなシステムに対しては、当然フリー・ライディングを誘発するものだという批判がなされることだろう。この本もそれは予想し、いくつかの反批判を展開している(第4章)。ただし、それらは、権利論にもとづく規範的なものか、あるいは「そんなにコストはかからないだろう」といったプラグマティックなものにとどまり、フリー・ライディングを論じるのであれば念頭に置くべき経済学的な議論はなされていない。

規範的な主張が多いことには同感。

『自由と保障』の理解に役立つかと思って、第三の道も読んでみたけど、これも規範的な主張が多かった。

この手の人たちは(と一緒くたにしていいのかどうかわからないが)、自分たちが掲げる「こうあるべきだ」に対して、どのように合意するかという考察が必要なのではないだろうか。

公正と効率を、どちらか一方ではなくて両方取るという主張はわかるんだけど、「公正」のシステム的な考察が必要だと思う。

私は、BIは、公正と効率の両面で優れた政策だと思う。効率については、他の福祉政策(保険の条件付給付)との比較で考えればいいので比較的簡単である。確かに、『自由と保障』にはその考察が欠けているが、これはBI自体の問題ではないと思う。

より致命的なのは、「公正」について、「何が公正か」という考察があっても、「誰がどのように『公正さ』に合意するのか」という観点が欠けていること。「第三の道」のような一般論には、明かにそれが必要だけどそれがない。『自由と保障』のような個別政策の本では、直接そこまで論じたらスペースが足りなくなるのは目に見えているけど、背後というか、気配としてそういう視点が欲しかった。