相手の主力製品をタダにする競争

今考えると、マイクロソフトは、Windows95にまともなブラウザを付けなかったことで、大変な危機に陥いっていたと見るべきだと思う。そこでマイクロソフトは、Windows98に「インターネット」というアイコンを付けて、Netscapeという会社の主力製品であった「ブラウザ」というソフトをタダで配った。

相手の主力製品をタダにする競争を始めたマイクロソフトが、Googleへの幹部の転職に激怒するハメになるとは、皮肉なことだ。


「Ballmer氏はそのとき、椅子を手に取り部屋の反対側に向けて投げつけた。椅子はそこにあったテーブルに当たった」(Lucovosky)。Ballmerはその後、 GoogleのCEO、Eric Schmidtを激しく非難し始めたという。「あいつを業界から葬ってやる。その程度のことは前にもやったことがある。何度でもやってやる。Googleを抹殺してやる」(Ballmer)。

Googleが、OSというマイクロソフトの主力製品をタダで提供しようとしているから、ここまで怒るのだと思う。Googleは、クライアント側にあったOSとその上のアプリケーションを、自社のサーバファーム上に構築して、それをタダで提供しようとしている。

Googleは、テレビ分野の人材を募集しているそうだが、そのOSは、テレビと同様、広告モデルで運営されていくのだろう。広告と言っても、それはアフィリエイトがさらに進化した現在の広告とは次元の違うものになるだろうが、基本はユーザを選別し特定のURLに誘導することで利益を得るモデルだ。

しかし、無印吉澤さんのかいま見たビジョンはさらにその先を行き、広告という、Googleの主力製品をタダにしようとしている。Google-OSをサーバファームの代わりにP2Pの上に乗せることで、技術的にも経営的にもタダにできるのだ。

あまりにも革新的な話で、正直言って、これが本当にeBaySkypeが考えていることかどうかは怪しい。しかし、それは無印吉澤さんのビジョンに両社が追いついているかどうかという問題であって、それと関係なく、このビジョンは実現可能である。

Netscpaeを飲みこんだマイクロソフトを飲みこんだGoogleを飲みこんでしまうこのビジョンは、誰かが気がつけば、一瞬で実現可能だ。直径30cmのケーキをタダで提供してごく僅かを受けとるビジネスモデルの、ケーキの大きさが、P2Pのネットワークを使うことで、より大きくなる。

Skypeのネットワークで、ダイアルアウトの機能は量的にも質的にもすみっこだ。eBay over Skypeのネットワークでの、オークションの機能も量的にも質的にもすみっこになるだろう。すみっこでちょこっとだけ利用料を取る。それで充分な利益を得て、P2Pのネットワークやその上のGoogle-OS(的なもの)を維持管理できる。

相手の主力製品をタダにする競争がこれで終わるのかどうかはわからないが、Googleの先があることは確かである。豊かさを世界に還元することでさらなる豊かさを得る企業が勝ち組になるのだ。

そして、この競争で、ユーザの力、コミュニティの力を利用するノウハウを得たネット企業は、その力で他業種に進出するだろう。コミュニティのすみっこに寄生して、コミュニティに仕事をさせることで、大半の仕事は、最良の企業よりうまくできてしまうものだ。他業種で最良の企業もマイクロソフトのように、その力に飲みこまれていくだろう。