チャレンジする生き方とチャレンジしない生き方

「勉強」特権階級の没落等の梅田さんの一連のエントリーが面白い。

取り上げられている問題は多岐に渡るわけだけど、「チャレンジ」という問題を中心に考えると、かなりスッキリ整理されてくると思う。つまり、梅田さんの問題提起は「チャレンジする生き方とチャレンジしない生き方が両方とも危機に瀕している」と要約できるのではないだろうか。

まず、高速道路化によって、「チャレンジする生き方」が難しくなっている。もちろん、チャレンジすることには今も昔もリスクが付き物だけど、競争がグローバルに世界と直結したことで、ハードルが上がって「大渋滞」が起きている。中途半端なチャレンジはできない社会になってしまったということだ。

一方で、「勉強」特権階級というのは、「チャレンジしない生き方」の成功モデルのひとつであったわけだけど、これもこれで今まで通りにはできなくなっている。この人たちは、与えられた能力や幸運を不確実性を減らす為だけに投資してきたのだが、もはや、その投資が「確実性」というリターンを約束しなくなっているのだ。

アメリカでは、社会が制度とマインド両面で「チャレンジする生き方」をサポートして、日本では社会が「チャレンジしない生き方」をサポートしてきた。どちらも、ネットという同じ要因で、揺らいでいるわけだが、立て直しも反対側への切り替えもうまく行ってない。

この「高速道路」とか「知のコモディティ化」という現象は、ネットやソフトの分野で先行して起こっているのだけど、そういうITがらみの狭い分野でだけ起きている特殊な現象ではなくて、我々の人生全てを飲みこんでしまうような、非可逆的な大きな流れである。

ITをやっていれば(そして少しだけ目を開いてモノを見れば)、その先駆けを体感することができるのだけど、そこで感じた危機感を業界の外の人と共有するのは難しい。

それで、どうしたらいいのか考えてみたけど、やはり、大きな変化、混乱の時には基本にたちかえることが必要だと思う。

こういう文脈で「チャレンジ」という言葉を使うと、漠然と職業の選択におけるリスクの構造のようなものを指しているように思われるだろう。もちろん、ここまでは私もそれを期待してその見方に添って書いているのだけど、私の本音は違う所にある。

「チャレンジ」とは、自分に与えられたものを開花させることだ。そういう意味では「チャレンジしない生き方」というのはあり得ない。その為のモデル、方法論はたくさんあるけど、そのどれが正解なのかを知るためには、自分が何を与えられているのかを知らなくてはならない。自分というものを内側から見ることができるのは、言うまでもなく自分だけで、結局、その答を出せるのは自分だけだ。

そのような意味での「チャレンジ」をサポートする為には、社会は個人にフィードバックを提供するべきで、お金と職業はこれまでその機能をかなりうまく果たしてきた。

だから、今までは「チャレンジ」について考えるかわりに、お金と職業について考えることで、自然と自分が何を開花させるべきか社会がガイドしてくれたのではないかと思う。例えば、「勉強」特権階級になることで、安定した生活と高収入が約束されるということは、そういう仕事をすることで、自分の「チャレンジ」を果たせた人がたくさんいたことのシグナルである。

そのような二次的な指標が機能していれば、それに頼ることで本質的な問題を回避できる。そうではなくなったので、誰もが自分の「チャレンジ」について、ゼロベースで考えなくてはならなくなった。それだけのことだ。

文科省の「ゆとり教育」は、そういう危機をとらえていることは評価できるが、かんじんな所が抜けている。二次的な指標は自分を外側から見ることで活用できるが、自分を内側から見ないと自分の「チャレンジ」は見えてこない。外側から見て「個性化」「ゆとり」「スローライフ」等と言っても、お金や競争よりもっと悪い指標を作ることしかできない。

同世代の企業人を見つめて悩んでしまうことから


「なんで昔はあんなに凄かったお前が、こんなにつぶしの利かない、組織の外では(実は組織の中でも)何の役にも立たない奴になっちゃったの? それは、この「20年間の過ごし方」が間違っていたからなんじゃないの。

この梅田さんの嘆きはよくわかる気がするが、私の言葉で言えば「お前の『チャレンジ』はいったいなんだったの?」ということだ。開花させるべき何かを持っていた人がそれを腐らせてしまったように見えるということではないだろうか。

自分のチャレンジが何であるのか、壁に向かって独りで座ることでそれを見つけられる人は少数だ。大半の人は、他者との関わり、社会からのフィードバックを必要とする。古い指標は機能してないし、WEB2.0の中に新しいシグナルは見つかるのかもしれないが、それだけに頼るのはリスクが高い。内側からのゼロベースの探求も同時に進めるべきで、WorldhacksとSoulhacks半分づつが最も確実なポートフォリオではないかと思う。