よしもとばなな: 海のふた

簡単に言うと、「郊外化」と戦う二人の若い女性の物語。

一人は小さなかき氷屋を一人で経営するたくましいまりちゃん。もうひとりは、とても繊細で傷つきやすいはじめちゃん。この二人のタッグは見事、数々の困難をのりこえて日本全国を覆いつくすような「郊外化」に逆らって、手作りの素朴なお店を成功させました。

でも、実は、この物語で徐々に明らかになっていくのは、たくましいまりちゃんの繊細さと、繊細なはじめちゃんのたくましさ。そして、「郊外化」という流れが決定的でくつがえしようのないものであることが、かき氷屋のささやかな成功の陰で、残酷に表現されている。二人の女性の複雑に構成されたパーソナリティのように希望と絶望がこの物語の中では対等だ。

別世界というものは複雑に折り込まれていて、ていねいに見ると、あることの裏にその反対のことが含まれている。

日本が決定的に失っていくものの取り返しのつかなさというのは、確かにある。その時代にその国に生まれてくる意味というものも、確かにある。これは、じっくり読むと、そういうことを感じさせてくれる小説だと思う。