圧力はあったけど朝日は嘘をついている

(この記事は、基本的にはこれまでの繰り返しで、ほとんど新しい内容はありません。自分の頭の整理の為に書きました)

ある行為が犯罪なのかそうでないのか、それが客観的に判定できない法律は悪法である。そういう法律は、現場の裁量にまかせられるグレーゾーンが大きくなり、癒着や利権の温床となる。

放送法は、「不偏不党」の原則がある一方で、放送局、特にNHKが公共サービスとして位置づけられていて、政府の監督を受ける必要性も明記されている。日本は議員内閣制なので、普通は与党のエラい人が総務大臣になる。その人にチェックを受けて「不偏不党」というのは無理な話だ。

この矛盾する二つの原則の関係について、調整するための原則や具体的な細則は無いようだ。私がWEB上の議論を追った限りではそこが見えてこない。

もし、特定の行為が「政治的圧力」であるのかそうでないのか、客観的な基準で認定できないのであれば、放送法は悪法であると思う。これについては確認してないが、以下、それを前提として論じる。

放送法がグレーゾーンの多いあいまいな法律であるとしたら、根本的な問題はそういう状態を放置して改善しなかった政府と与党の怠慢である。そこが最初に批判されるべきだ。

それを批判し解決策を議論することがまず必要であるが、それをした上で、悪法も法であるからには、それに抵触しているかを議論しなくてはいけない。

そこで必要なことは、次の二つだと私は考える。

  1. 形式的に「違法」と判定され得る多くの行為の中で、なぜその特定の行為を問題とするか
  2. 問題となる行為について事実関係を明確にする

例えば、飲酒運転で高速道路を300kmですっとばした男をスピード違反で逮捕したとする。警察が強引にその男の身柄を拘束したとしても、それは当然のことだ。しかし、制限速度30kmの所を35kmで運転して逮捕、身柄拘束したら、警察は、なぜいつも黙認しているその行為を、その時に限り強引な逮捕を行なったのかについて説明が求められるだろう。

スピード違反も、(形式的)違法行為が通常黙認されているのが、これはやはり悪法だと思う。制限速度30kmの所を35kmで運転しても、違法行為は違法行為だ。しかし、それを理由にして、スピード違反で誰でも逮捕していいことにはならない。

逮捕していいのは、100km以上の無茶苦茶なスピード違反である場合か、飲酒運転等、より問題の大きい行為を取り締まるための手段である場合である。どちらにしても、「奴は35kmで運転してた」という以上の説明が必要だろう。それができなかったら、警察が何故その男を狙うのかについて、隠された意図を疑われるのはしょうがない。

新聞は政府機関ではないが、「公器」だとしたら、やはり一定の社会的責任がある。悪法に基づき、グレーゾーンに関わる領域で告発するなら、そのような意味で、事実関係を明確にすることが必要だろう。

警察が誰かを「300kmで運転していた」として逮捕した所、その男が「自分は35kmしか出してない」と言ったら、300km出していた証拠を求められるのは当然だ。もし出せなかったら、その意図について疑いを持たれてもしかたない。

私は、(あちこちのブログを断片的に見た個人的な感想として)「圧力」があった可能性はかなり高いと思っている。ただ、それは悪法の元で常態化している「圧力」の一部であって、監督責任と一体化したものではないかと思う。「報道」について、組織と予算や監査のプロセスを分離しない限り、それは避けられないことだ。

その根本を問題にしないで、特定のケースを取りあげて問題にするならば、明確な事実関係が必要である。

そしてそのポイントとなる、松尾氏が「圧力を感じた」と証言した、という朝日の主張には、根本的に無理がある。かなり濃厚な否定的状況証拠がある。

もし、安倍氏の意向があって松尾氏がそれを受けて改編の指示をしたとしたら、この問題について一番危機感を持っているのは松尾氏である。しかも、松尾氏はこの問題について国会で証言している。だから、それを翻すということは、自身が責任を問われることであって、特別の動機がなければ、あり得ない話だと思う。

  1. 思想的に転向して、自分を犠牲として告発する意思を固めた
  2. 利害関係が変化した
  3. オフレコとして実態を述べたのを報道された

1や2は、松尾氏がNHKの記者会見で先頭に立ってかなり強い言葉で朝日新聞を告発、批判した事実と矛盾する。3であるとしたら、松尾氏が本田記者に騙されたか乗せられたことになるが、本田記者という人は、非常にアグレッシブな取材方法で有名な人であって、その人に対して無警戒に真相を暴露してしまうこともあり得ない。

他にもいろいろ考えてみたが、どう考えても、「圧力」があったとしたら、松尾氏が本田記者に真相を暴露する合理的な理由はない。特に、問題の松尾-安倍会談の後に、大きな改編が行なれたとしたら、なおさら、松尾氏が「圧力を受けた」と話す理由がない。

要するに、「圧力はあったけど朝日は嘘をついている」というのが、論理的に考えて最も可能性の高い結論ではないかと思う。

そしてそうなると、朝日新聞は、何ら新しい具体的事実が無いまま、あらためて安倍氏と中川氏をターゲットとして、4年も前のこの問題を蒸し返したわけで、その意図について、疑いを持たざるを得ない。

安倍氏と中川氏と利害が対立する勢力から、この時期を特定して、強い「圧力」もしくは「指示」があったのではないだろうか。

放送法を改善することも必要であるが、やはり、こちらの方がずっと重要な問題だと思う。