開発途上国のインフラ問題

ソフトウエアの世界では、常に、iGooglePodのような、スケールのべき乗的変動を意識していないと正しい判断ができません。正確な未来を予想して動いているわけではなくて、自分が無意識に想定しているスケールや常識を常時否定し続けることで、変動の兆候に少しでも速く気がつけるということです。

例えば、HTTPなんてプロトコルは無駄が多いんです。10年前にはHTTPを選択する場合に、その無駄によるコストと利便性を慎重に比較する必要がありました。しかし、その時点の感覚をそのまま適用して別の選択をすると、たいてい失敗します。数年すると、そういう無駄が気にならないくらい、回線もパソコンも性能が向上してしまいます。だから、何かを開発する時に、常に今の自分の感覚を否定してから取捨選択するのです。

ネットは食料より先に世界に行きわたるは、そういうセンスを政治的な問題に接続しようという問題提起です。

コメントで指摘されましたが(本文にも書いてますが)、ネックは電源の問題です。端末は太陽電池燃料電池でなんとかなるような気がしますが、ネットワーク網(基幹ルータや携帯の基地局)の電源は確かに問題です。

しかし、部分的にでもそれを解決したら、「次の10億人」をデジタルデータの世界に取りこむことができて、すごく大きなお金が動きます。だから、これからものすごい金額が研究開発に使われると思います。ということは、世界中から凄く頭のいい人がそこに吸い寄せられていくということです。

頭のいい人の流動性が高まっていて、しかも、彼らはネットの使い方もうまいから、一人でやってもすごいのにどんどん集まって協力してよってたかっていい仕事をしてしまう。それによって常識がどんどんくつがえされていく、ということも、日々、ソフト屋が痛感している真実です。

デジタル処理は、本質的には電源の質に対する要求が低いはずですが、先進国のインフラとそれを巡る技術体系は、モーターや空調のようなアナログ処理の品質を前提にできています。だから、おそらくデジタルの需要者から見ると、必要以上の品質を想定してコスト高になっていると、私は考えています。負け組用の電気でも充分使いものになるのです。

風力発電と携帯の基地局を一体化して風車をアンテナにしてしまう、というような感じで、既存の技術を組み換えれば、大きなブレークスルーは充分起こり得ます。だから、それが解決してしまうという仮定を置くのは、それほど空想的なことではないでしょう。

固定電話抜きで携帯が整備されてしまうように、これからはテレビやラジオ抜きでネットが広まる国が出て来るでしょう。しかし、そこで止まってしまうのは、デジタルに慣れてない人だと私は思います。道路網や安定した食料供給ルートより先に、情報が行きかう可能性は充分あります。

ただ、そこで権力がどう変質するか、やはり大衆世界が出現するのか、どのような倫理が必要とされるのか…、そういうことはソフト屋のノウハウでは解けません。そういうことは、簡単にコンセンサスがとれることではないので、なるべく先回りして考えておくべきではないかと、私は思うのです。