同好の士だけが見てくれるWebサイト

儀礼的無関心の問題は、単に特定の層のニーズが満たされてないだけだという意見です。それを前提としての現状の分析や提案も含まれています。

「ページは公開するけど、特定の人にしか見せたくない」というニーズは確かにあるようです。しかし、そういうサービスをする業者はいないし、技術的な知識無しにそれを可能にするツールもない。だからそういう人たちが困っているだけではないか、というotsuneさんの指摘はなるほどと思いました。

ここでポイントとなるのが、こういうニーズを持つ人たちが「誰に見せたいのか?」という問題に明確に答えられるのかどうか、ということです。自分の知っている特定の人にしか見せない、という話なら簡単です。これ書きながら気がついたのですが、はてなダイアリーのプライベートモードがまさにそれですね。メーリングリストでも可能ですから、初心者向けのサービスもあると思います。

しかし、どうも儀礼的無関心というマナーを要望する(と想定されている?)人たちは、そういう完全にクローズのコミュニティを運用したいのではないようです。ある範囲では一般公開したい、自分の知らない人にも見てほしい、という非常に複雑な気持ちがある。特定メンバー向けのアクセス制限では満たされない複雑なニーズなのです。.htaccessができない、という技術的な問題が本当の問題ではないような気がします。

ただそれにしても、要件がハッキリしているものなら、誰かが作ると思います。複雑であっても、ケース分けをして分析していけば、工数は膨らむけど作ることはできます。でも、そういう話でもない、「ニーズの複雑さ」にも帰着しない問題のようです。それで私は思うのですが、このニーズというのは「自分のニーズをハッキリさせたくない」というニーズなのではないでしょうか?

つまり、自分の書いたものを人に見せたいのか見せたくないのか、そのことをハッキリ明言したくない、それは他人に対してもそうだし、自分自身に対してもそうなのです。仮に、何らかの手段で微妙なアクセス制限をしてくれるサービスがあったとしても、そのサービスを利用して自分の文章を公開するということは、そのサービス(と設定)によって表現される特定の人に向けて自分は書いているのだ、と宣言していることになります。それが明確になってしまうことを避けたいのではないでしょうか。

あるいは、読んでほしい自分と読んでほしくない自分の葛藤に決着をつけたくないというニーズ、と言えばいいかもしれません。

正直言って、もしこの通りだとしたらいくらなんでも都合がいいことを言っているように私は思いますが、最近ちょっと哲学かぶれなので、「全員、自分の人格を統合化しろ」という強制がいいことなのか、ちょっと迷います。

反応リンク集は、全部は見てないですがとても面白い文章が多いと思います。なんで、このテーマがこういう良質な文章を集めるのかが謎と言えるくらいです。しかし、ここまでこの問題に注目を集めてこの問題を明るみに出してしまったのは、このニーズを持つ人から見ると、ちょっと具合が悪いことのような気がします。注目を受けたことから何らかの改善がなされるとしても、この問題が表面化してしまうことで、書く側の読む側に対する無意識的なニーズが意識化されてしまいます。

そうなっちゃうと、もう元には戻せないんです。リンクする前に、メールで「おたくは儀礼的無関心要望サイト?」とか聞いておけばいいというものでもないでしょうね。極端に言えば、そういう座標軸を持った視線を感じることが負担になるのではないでしょうか。

それともうひとつ。これを考えている間、この問題は日本人だけの問題として考えていていいのかが頭にひっかかっていました。リンク集の文章を読んでいくと、みなさんさすがだなと思いますが、「日本人」と言いそうな所で「日本人」と言わずに「日本語」と言っている人の方が多い。やはりそれを意識しているのでしょうか。

これは空理空論ではなく、現実にケン・ルーさんのように、日本人じゃなくても素晴しい日本語のサイトを運用している人もいます。ちょうどこのテーマに近い、孤独な声──つぶやきと意見の境目なんて文章もあります。ケン・ルーさんの感性にも日本語能力にも私は違和感はほとんど感じませんが、彼と同じくらい日本語が読み書きできるけど、彼とは違って全く異質の感性を持った異国の人が、これから増えてくるのだと思います。

そういう人と、「ニーズを明確したくない、人格を統合したくない人」がどういう葛藤を起こすのか、見ものと言えば見ものです。一応、技術者の端くれとして、プログラムを書いて解決できるもんなら、書いてもいいとは思いますが(そういう人はいっぱいいると思いますが)、どういうプログラムを書いたら解決できるのかは見当もつきません。それを考えるのは、プログラマーの仕事ではないでしょうね。