ハリウッド型が唯一のモデルではない
そのとおりですね。さきほどの話に付け加えると、そもそも、ハリウッドを文化発信のモデルとして考えることが根本的に間違っていると思うんです。僕は消費者としてはハリウッド映画は大好きですが、あれは従来の映画鑑賞とは異なった独特の消費文化を形成している。シネコンに行って『マトリックス リローデッド』を観るのは、テーマパークに行くのとほとんど変わらない。
政府の「知的財産戦略」に関する座談会の中での東浩紀の発言。
文化産業は、コンテンツの品質そのものではなく、コンテンツを介在としたコミュニケーションによって支えられます。裏返せば、大量の宣伝によって「これを見ないと仲間はずれにされる」という強迫観念を刷り込むことで、文化産業は成立している。その内容は一種の「ゼロ記号」で、教室内や職場での会話の役に立てば何でもいいのです。そういう方向にポップカルチャーを駆動させていくと、必ず、利得の一極集中を生み出し、少数のスターを生み出す一方、多数の才能あるクリエイターが生きにくい状況になっていく。
文化産業が宿命的に文化を歪めていくという構造を、簡潔に表現していると思う。しかし、これと違う方向性が、ネットDVDレンタル屋さんのという業態の中にはあるのではないか。
そもそも、既存の音楽産業がメガヒット依存になるのは、経済的なコストの問題でもある。1種類のCDが1000枚売れるのと、100種類のCDが10枚づつ売れるのでどちらがよいか。売上げは同じだが、在庫管理や受発注等の業務や店員の専門知識の教育コストなどで、後者の多品種少量生産の方が圧倒的にコストがかかる。ユーザ全員があゆや宇多田ヒカルのような決まったもの予定どおりに買ってくれれば、流通の無駄をなくすことができて、売る側は実に楽である。
これが「ハリウッド型ビジネスモデル」の経済的な利点だが、さらに日本では、東氏の指摘する同調圧力を利用した宣伝が有効に作用する。この手法によって非常に効率的に宣伝活動ができる。
しかし、ネット+宅配によるDVDレンタルという業態では、コスト構造がこれと全く違う。
この方式では、1枚あたりの輸送コストはメガヒットでも誰も知らないカルト的なマイナーな作品でも同じだ。そして、宅配で行って帰ってくる期間がかかるので、どうしても回転率が悪くなる。ユーザが全員ハリウッドの大作ばかりを好んで集中すると、同じタイトルをたくさん買う必要が出てきて具合が悪い。むしろ、みんながバラバラに違うものを好んでくれた方が好都合だ。管理もシステム化されているので多品種でも問題ないし、作品紹介等もWEBだからいくら個別に詳しく書いてもスペースの問題がない。
そのような特性に焦点をあてた、緒川たまきさんの選ぶ10枚のDVDという企画は実に見事だと思う。これは「おまいら、この10枚を見てください」と言っているのではなく、「こういう自分独自の選択基準や価値観を持ちなさい。そうすれば緒川たまきさんのように素敵な女性になれますよ(めぐりあえますよ)」という誘導である。
この「みんなバラバラになれ」というメッセージは、販売側の経済的な利益を狙った巧妙な誘導だと思うが、あまりいやらしさは感じない。(決して緒川たまきさんの魅力に眩惑されて公私混同しているのではない(笑))これが文化というものの本質につながっているからだろう。そしておそらく、このメッセージが企画者自身の本音でもあるのだと思う。そこに、ある種のすがすがしさを感じる。
商売をするなら、こういうふうに自分自身の商品への愛情を裏切らないビジネスモデルを構築すべきだと思う。