サップと小田和正

はっきりとした根拠を持ってサップの勝ちを予想していた奴もいるんだろうが、そういう奴でもいざ本当にサップが勝った時にはやっぱり一種の驚きを感じたんじゃないかと思う。ましてや俺は「海を見ていた午後」をきちんと歌える奴がいるなんて夢にも思わなかったから、小田和正が声の良さだけであれをあっさり歌いきった時には心底驚いた。

サップが体がデカくて動けるだけの奴であるとしたら、小田和正は声がよくて伸びるだけの奴だろう。そういう奴が結果を出すと、「格闘技はそんなもんさ」かと思うし「格闘技はそんなもんじゃない」とも思う。「歌なんてそんなもんさ」とも言いたいし「歌はそんなもんじゃない」とも言いたい。

怪物のような肉体が苦労人のイイ人と同居していて、天使の歌声はけたはずれの傲慢さと同じ体を共有している。必然のようでもあるし不公平なようでもある。

何を言っても言葉というものは、こういう現実を収容するだけのキャパシティがないんだなと痛感し、そういう存在が世界を愉快にすることが痛快でもある。