[?date=20020630#c01:title=三郎さんへ]

法律のことはよくわかりませんが、今回の判決におけるポイントは「公益性」と「事実認定」たと思います。つまり、誹謗中傷が名誉毀損であることは疑いようもなく、問題は、「公益性があり事実であれば名誉毀損にならない」という例外規定に該当するか否かがポイントだと私は考えています。

そして、一般的な意味では、匿名掲示板には「公益性」も「真実性」もありません。誰でも好き勝手に嘘を書いていいし、それを管理人が原則放置するような場では、まともな議論が行なわれるわけがないと考えられます。実際、今回の裁判官も、2ちゃんねるが相当な悪意を持って運営されていると判断したようです。(管理者の責任の分担が一般的な法解釈より高め)

しかし、私は、多人数の集まる匿名掲示板には自然発生的な自浄作用とでも呼ぶべきものがあると考えています。つまり、嘘や考えの浅い書きこみは叩かれて、その実態を暴かれ、自然に消滅していくと。そして、この働きのおかげで、公益性と真実性が高くなると考えています。

仮説の提示→反論→第三者の判定→その結果をもとにもう一歩進めた仮説の提示

というような一連の過程があり、いろいろな専門知識のある人が、さまざまな立場から反論、検証を行ないます。専門家が匿名で発言できることが、この検証過程で有利に働いていると思います。つまり、専門家というのは、その立場のためにしがらみや利害関係をかかえているので、普通ストレートに発言できません。また、間違いの可能性がある場合には、どうしても「たぶんAだと思うが、Bの可能性もある」というようなあいまいな言い方をせざるを得ません。もし、Bだった場合に面目がつぶれてしまうからです。

しかし、同じ専門家が2ちゃんねるに来たら「Bと言う奴は素人か○○信者」等と言って、ストレートにAだと主張します。立場がはっきりしているぶんだけ、議論がスムーズに進むのです。匿名の議論は、負けてもかまわないので、論点や立場を明確にできて有益なディベートになります。

だから、匿名掲示板には自然発生的に「論理的に整合性の検証を行なった仮説を前提とした参加者の多数意思を反映した意見」をまとめる機能があると考えています。その結論が絶対的に正しいものとは言えませんが、相当の真実性があり、充分な公益性を持っていると私は考えます。

問題は、このような検証過程が順序だててきちんと進むわけではなく、いったりきたり、同じ話を何度も繰り返しながら、スパイラル状に進むことです。しかも、その間に、無意味な隠語や罵倒がたくさん入っています。ですから、そのような過程を読み取ることができない人もたくさんいます。ある程度、匿名掲示板の雰囲気や隠語、暗黙ルール等に通じていないと、議論の展開や方向を読み取ることができません。

また、このような議論が成り立っているスレッドを見慣れていると、思いこみや個人的な感情で一方的な主張する人間のいるスレッドでは違和感を感じます。ですから、悪意を持って自作自演を駆使しても、多人数の匿名掲示板のスレッドを方向づけるのは難しく、無理にすれば、人間が離れていきます。そのような過程をリアルタイムで見ていれば、少人数の一方的な主張を信じる人が少ないことがわかるのですが、これを過去ログとして閲覧した場合は、悪意のある煽動者に引きずられる危険なメディアに見えてしまうかもしれません。

だからと言って、匿名掲示板に何のマイナス面も無いと主張したり、無条件に肯定するつもりはありませんが、充分な公益性を持つが誤解されやすいメディアとして、充分にそのプラス面を考慮したバランスの取れた判決がなされることを望みます。そのためには、この「自浄作用」を匿名掲示板に慣れてない人にどのように理解させるかというのが、大きな課題だと思います。