無題

ミンデルという人がワールドワークということをしている。イスラエルの人とパレスチナの人を数名ずつひとつの部屋に呼び、言いたいことを言わせて仲直りさせるという行事である。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ」とか「貧弱!貧弱!」と言う声が聞こえてきそうな話だ。田舎の高校の文化祭じゃあるまいし、たった数名の人をむりやり仲直りさせたって、そんなことは現実の世界になんの影響も及ぼさない。

・・・と思った奴は真のリアリストとは言えない。国際政治について多少の知識があり、イスラエルパレスチナのこんがらがり具合を知っていたら「本当だろうか?」と疑うのが正解だ。つまり、ちょっと話あうだけで仲直りしたなんて嘘だろ?と思うのがリアリストだ。

だが、朝の学級会のように無理矢理握手させて「さあ、これからは二人ともケンカしないで仲良くしましょうね」と言わせるようなことは、心理療法ではない。心理療法のプロは一般にそういうことを徹底して避けようとする。心理療法家が「憎しみを溶かした」と言うのなら、その通りのことが起こったのである。

心理療法家は、憎しみ、怒り、恨み、といった感情についての専門家である。こういう感情が、どうやって起こりどうやって蓄積しどうやって人のすることに干渉するかについて、いろいろな事例を体験し、体験とリンクした理論を持っている。そして、もちろんこういう感情を処理する方法を知っている。ミンデルは、サッカーで言えばロナウドみたいなもので、そこらのクラブチームのFWとは決定力が決定的に違う。だからそれくらいのことはひょっとしたらやるかもしれない。

決定力とは何かと言うと、決めるべき時に決めることで、実際、ロナウドが2002W杯であげた8点は、大半が当然決めるべきゴールを決めているだけのように見える。素人には、Jリーグクラスのプロなら誰でも入りそうなゴールに見える。そう思わせてしまうのが得点王の凄さなのかもしれないし、そういう球が来る位置に飛びこむことにマジックがあるのかもしれない。超一流と一流の差は説明するのが難しい。たぶん、ミンデルの凄さもそのようなもので、ただの話し合いの中に見えないマジックがあり、実際にその場の憎しみを溶かしたのだと、俺は思う。

パレスチナ問題について語るには、軍事とイスラムの知識が必須だと言われる。だが、これは同時に「憎しみ」の問題であり、「憎しみ」のプロを呼んできて、専門家としての見解を聞くべきだ。軍事知識なくして国際政治を語ることが無意味であるのと同様に、リアルに紛争を解決したいと思うならば、ミンデルのような人の言うことに、もっともっと耳を傾むけるべきだと思う。