SEは仕事の価値に見あった月給を取れ

仕様を決めて無限の期間を与えれば、誰だってちゃんとしたプログラムを書いてくる。しかし実世界のシステム開発は仕様を決めながら決まった時間でプログラムを作らなくてはならない。これは生きたピッチャーの球を打つようなもので、球が飛んでくる前にバットを振りはじめ、瞬間的に直球なのかフォークなのか見極めながら作業をすることである。誰にでもできることではない。そして、このようなダイナミックな要素を含む作業は、できる奴ができない奴にやり方を教えることもできない。

なかでも、仕様を決めるということが大変である。運転手を雇い、一切口をきかずに会社まで送りむかえさせることを想像してみるといい。自宅から会社までの道筋を教えておくだけのことだと思うだろうが、それでは渋滞を回避する知恵もない、途中で友達を見かけても絶対に止めてくれない、残業があっても送別会があっても定時になると拉致されて自宅へ連れていかれる、かと思うと寝坊をした時は置いていかれる、およそ常識外の腹の立つことばかりする。文句を言えば「事前にちゃんと言っておいてくださいよ」と言う運転手のようなものだよコンピュータは。

それで事前にありとあらゆる異常事態を想定して話をするのが、ソフト屋が言う「仕様を決める」ということである。大地震が起きたらどうするか、会社がつぶれたらどうするか、そんなありとあらゆる馬鹿げたことを考えて、全部決めておかないといざという時に役にたたない。素人が直接こういう運転手を雇うのは無理だと言うことで、通訳をするのがSEという商売である。うまくできなくても、SEが悪いのではなく運転手が悪いのである。

それでも自宅と会社の位置が決まっていればまだいいのだが、組織が相手だと、それさえもなかなか決まらない。「いったいぜんたい私の会社はどこにあるんでしょうか」みたいなことをユーザが聞いてきて、一緒になって一生懸命考えてやる。組織がまともに機能してても、会社の場所を決めるには時間がかかる。ましてや組織の中に政治があると、陰謀を巡らせて会社の位置を変えようとする奴が何種類もいて、どいつが勝ちそうか見極めなくてはいけない。

おまけにユーザは会社の位置を決めたら仕事はすぐに終わるだろうと考えてしまうのだが、SEの仕事はそれからであって、道筋を詳細に調べありとあらゆる馬鹿げた異常事態を想定して、運転手にやるべきことを全部教えなくてはいけない。何しろこの運転手は、ある日を境に一切会話しないで仕事をするのである。教えるべきことは山ほどあるし、教えているうちに道路工事があって道が通行止になっていたりする。

みずほのようなシステムを納期どおりしあげるというのは、9回に佐々木が出てきた所で「必ず3点取ってこい」と言うようなものである。およそ人間技とは思えない仕事なのである。

それで、問題は大きくわけて二つある。

第一にこんな凄いことをやってしまう、イチローみたいに凄い人間が存在することである。第二にそういうイチローのような凄い人材が安月給で雇えることである。

銀行の経営者は馬鹿だから、何でも金の話にしないと理解しない。だから、そういう人間は安月給で仕事をしてはいけない。ちゃんとそれなりの金を取って仕事をすべきである。そうしないと、作業の価値が理解されないのだ。

それでは経営者が馬鹿でなければ安月給で仕事をしてもいいのかと言うと、それは個人の趣味だからしてもよい。ただし、それをする奴は少なくともマルクス程度の論文を書く義務があると思う。

というのは、資本主義はものの価値を価格に集約することで成りたっているのであって、その関係性をゆがめることは、独占禁止法にも書いてあるように悪である。道徳的な意味での絶対的な悪ではないが、社会全体に迷惑をかける行為である。普通はやめた方がいい。どうしてもしたければ、資本主義に代わる社会システム又は道徳観を打ちたててからやれ。

まあ結論を簡単に言えば、優秀なSEが安月給で働くからこんなことになっちゃんたんだ、ということだ。みずほを教訓として、優秀なSEは仕事の価値に見あった月給を取るように努力すること!君のためではなく社会のために!