ローカルスタンダード

各社からクルーソー塔載モデルが出たがNECのものが一番意欲的だった。評判の悪い反射型の液晶を使ったり、デイスプレイの裏側にバッテリをつめたりして、何と標準バッテリーで10時間以上動くようにしている。とにかく「外でモバイル」へのこだわりで一貫していて、いさぎよい。

思えば、10年前はこの会社の98というローカルスタンダードを俺たちは使わされていたのだが、 NECは実にうまく切り替えたものだ。 98で引っぱるだけ引っぱって、ATを出したかと思ったらあっというまにそっちを主役にしてしまった。市場の流れに合わせてシェアも保ちながらユーザにもあまり迷惑をかけずにここまで来たのは評価してよいと思う。

そこで、もしNECがゼネコンや銀行だったらなんて考えてみる。たぶん市場の流れを政治力で押し止めようとするだろう。何故かAT互換機の発売は行政指導でさしとめられ、俺たちは21世紀まで98を使わせていただけることになる。台湾だの香港だのソーテックだのと怪しいもの買う必要はなくなり、相性でつながらない周辺機器に悩むこともない。非常にわかりやすい秩序だった商品になっているだろう。当然、技術の進歩のスピードがダイレクトに価格の低下につながる、あの流れは起こらず10万円のパソコンなんてものはない。市場は広がらず、ネットもないし激打もないしソフトも高いままだろう。森総理が冷汗かきかきパソコンを習う必要もない。デルだコンパックだゲートウエイだと毛唐どもに市場を荒らされることもない。

なるほど供給側は楽だね。俺も業界人のはしくれだから、マジでこうなってて客を楽にダマせるあの頃が続いていたらと思う。秩序と安定があるのはこっちだろうな。だけど、その場合NECクルーソーなんてものには手を出さずに、冒頭にあげたあのマシンは絶対に出てないだろう。いや、そもそもソニーが入ってこなけりゃ、B5薄型ノート自体がありえなかった。

ビッグバンとか規制緩和っていうのは、「98を使え」という行政指導をやめてAT(グローバルスタンダード)に切り換えることであり、ユーザにとってはいいことばっかりなんだよ。 98に未練がある評論家どもは、ATは自己責任で日本人向きでないとか、外資に蹂躙されるとかいろいろ言うが、あれは全部嘘。