アルティミシア城顛末記
うちの奥さんは、ちょっとしたこころのトラブルを抱えていて、外出することが困難である。従って、レジャーというとテレビ、ビデオの類しかない。マンネリも極まるので、あまり好きでなかったテレビゲームもやるようになった。しかし、自分でやるのはアクションゲームのごく一部であり、たいていは私に操作をさせる。後ろで見ていて「そこで右、危ない。すぐ戻る。早く。戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ!ほら死んだじゃないか」などと罵倒してればそのうち先に進むという実に気楽な御身分である。
しかし、私もこういうのが嫌いじゃないので(ゲーム?罵倒?)、進んでやっているのだが、いつのまにか、子供たちも罵倒軍団の仲間入りをするようになってきた。「とうちゃん、トロイなあ」「なんかとうちゃんの戦略はおかしい」とこちらもいいたいことを言う。さすがに温厚な私も、子供に言われると、コントローラをほうりだして「そんなに言うならおまえたちやってみろ」とキレてしまう。子供の言うことは大抵あたっていて「そんな武器じゃ次で死ぬよ」と言われてそのとおり死ぬのでますます腹が立ってくるのだ。
我が家では、夕食後にこういう時間を過ごすのが恒例となってしまった。そして、いくつかのゲームをやっているうちに、私は思わぬ自分の弱点を発見した。それはパニックに弱いという特性である。例えば、バイオハザードのようなゲームでこういう特性が顕著にあらわになってくる。これは操作性が独特で、ちょっとした慣れが必要である。そのこと自体は問題ない。2〜3日やるうちに自然とわかってくる。アイテムを探している場面では、呼吸するように自然に行きたい所へ行けるようになった。ところが、ひとたびモンスターが出現すると、方向感覚がいっぺんにでたらめになってしまう。右にモンスターがいれば右へ、左からゾンビが襲ってくれば左へ、いちいちモンスターがいる方へ突進してしまう。罵倒軍団が声を荒げてわあわあ言うと、パニックは度合いを増し、いよいよ主人公は正確にモンスターのいる位置を目指すことになってしまう。
その次は、メタルギアソリッドをやった。主人公は「伝説の男」と呼ばれる歴戦のツワモノである(はずである)ところが、この「伝説の男」もやたら気が弱いことが判明した。潜入した建物のはるかかなたにザコ敵が一匹いると、もう胸がドキドキしている。落ち着いて行動すれば何でもないところで、わざわざ音を立ててしまう。それでも、敵に発見されるまでは随分間があり、逃げるにせよ攻めるにせよ手はいろいろある。しかし、ヤツはパニックを起こして、やはり敵に向かって突進する。見つかってからやっと向きを変えるが、もうどうしたらいいのかわからず、意味も無くそのあたりをぐるぐる旋回しはじめる。
こういうふうに、パニックにオタオタする父親像を子供に見せるのは教育上悪いので、もう少しアクション性の低いものを、ということでFF8をやることにした。これはさすがに、イベントもムービーも多くて、普通の戦闘でさえも充分派手で、家族で鑑賞するのには具合がいい。アクション的要素、反射神経を要求される場面もなく、戦力の割り振りのようなシミュレーション的なものは得意なので、それほど惨めな姿をさらすこともなくなった。しいて言えば、戦力(GFと魔法のジャンクション)に凝りすぎて、戦闘準備に時間がかかることが問題だった。ボス敵の手前などでは、メニュー画面に入って調整を繰り返すうちに一時間以上たってしまうこともあり、これは後ろで見ている観客は退屈する。だから、自分としては、最適化はあきらめ、ほどほどの所で先へ進めてしまう。やはり、300万本以上売るつもりだから、難易度は低めに調整してあるらしく、そういう半分投げやりの戦いかたでもなんとかラストダンジョンのアルティミシア城までは進んだ。
ここまで来て、なかなか従来どおりのいいかげんな攻撃では歯が立たなくなり、真剣に戦略を考えるようになった。このゲームは、こちらのレベルによって相手のレベル(パラメータ)も変化するので、単純に経験値をかせげば、そのうち倒せるというものでもない。どちらかと言うと、レベルを上げずに、他の手段でキャラクターを強化することが必要なのだ。
それで、まず、情報収集を開始した。ネットで調べ、会社の同僚に聞きまくり、最後に玉砕しながら戦ってみて、ラストバトルの全貌が見えてきた。ラストバトルに限っては、一部バトルシステムに変化がある。こちら側のキャラ6人中、3人が戦闘を行うのは同じだが、通常、プレーヤーがその3人を選択できるのに、ラストバトルではランダムで強制的に選択される。そして、3人同時に戦闘不能にならない限り、控えていた残りのキャラが順番に登場するという仕組みだ。敵側も、単純でなく、4段階に変化する。それぞれ、攻撃方法や特性が違い、実質4つのボス戦を連続で戦うようなものだ。しかも、要所要所で、非常に強力な全体攻撃がある。ネットでは、「ラスボスの癖に弱すぎる」という不満を持っている人もいるが、私のように時間が限られたものには、充分困難な戦いである。
戦略として、まずGFはあてにならないので、必殺技とコマンドアビリティ主体で戦略を考える。当然、攻撃はリノアとスコールの必殺技。これはほとんど必然だからいい。しかし、リノアの必殺技はアンジェロとヴァリーがある。どちを主体にするかということで、深刻な親子喧嘩が発生してしまった。私は、アンジェロはランダムの要素が多すぎて問題が大きいと考えた。それに、回復やステータス変化の手当てなど忙しい。うまくオーラをかけても、それで2発も出せればいい所だ。そこで、アルテマだけを装備してヴァリーで戦うことにした。しかし、長男は、ヴァリーではキャラの操作ができなくなるというマイナス面を重視して、これを使うな、と言う。言い争いになり、両者なかなか譲らない。結局、(親ではなく)操作担当者の権限で、ヴァリー作戦でいくことになった。
次の問題は、GFと魔法の割り振りである。6人均等に割りつけるか、3人に集中させるか。私は捨て駒を作るのは嫌なので、最初は、6人に分散してみた。すると、「ショックウエーブパルサー」などの全体攻撃で簡単に全滅してしまうことが判明した。ただ、まともに戦えるのが3人では、あまりも運の要素が強い。捨て駒の3人が最初に出たら、いきなり全滅である。3人揃ってからも、ちょっとしたトラブルで欠けてしまうと後がない。そこで、ちょっと工夫し、攻撃役2人(スコール、リノア)、補助役2人(ゼル、アーバイン)捨て駒2人というう配分にした。そして、スコールとゼルに防御やHPを集中し、全体攻撃でもこの2人だけは生き残るようにした。リノアがいない時は、スコールが攻撃役、リノアがいる時はスコールは補助主体で、余裕が出たら攻撃も行うという作戦である。
さて、実際にやってみるとちょうどよく、捨て駒(キスティス)、補助(アーバイン)、攻撃(リノア)から各一名という構成のメンバーで戦闘が開始した。早速、リノアにヴァリーをかけ、ヴァリー状態にする。効果は毎回9999である。さらにヘイストを加え、テンポを早くする。順調である。補助役のアーバインは、回復とステータス変化技の手当てに専念する。かわいそうだが、捨て駒のキスティスはあっというまに戦闘不能になるがほうっておく。セルフィに入れ替わると同時に、戦闘も第二段階をむかえ、召喚獣が登場した。
ここまではヴァリー(アルテマ連発)が予想以上に強力で順調である。ところが、ひとつ問題がある。この召喚獣は死に際に「ショックウエーブパルサー」を出してくることがわかっている。これに対して私は、ゼル(防御コマンド付)かスコール(HP+精神が高い)どちらか一人が生き残り、他を助けるという作戦で臨んだ。ところが、その2人が登場しないのである。セルフィが死んでくれれば、次にどちらかが登場するのだが、それを読んだかのように、なかなか敵はセルフィーを攻撃してこない。ここで、ヴァリーを選択したことのマイナス面に見事に直面したわけだ。本来なら、セルフィーが残りの2人のどちらかに代わるまで攻撃の手をやすめたい所だ。ところが、いったんはじまったら制御のきかないヴァリーである。迷う間もなく「ショックウエーブパルサー」がはじまってしまった。
子供がせせら笑うように「だからいわんこっちゃない」と言う。父の面目がかかった戦いになってしまった。しかし、何と!幸運にもリノアだけ生き残った。もちろん、残りHPはわずかである。よし、ここはとにかくまずリノアを回復して、その次でアーバインの蘇生・・・だめだ!まだヴァリー状態だ「やっぱりねえ」子供の嘲笑がキツい。ここでやられたら全滅なのに、リノアは暴走特急のようにとまらずアルテマを撃ちつづける。危うし!父のプライド!
だが、幸いに一瞬の差で、スコールとゼルが到着した。すぐにリノアを回復して、戦闘準備を整える。トリプル、シェル、ヘイスト、オーラ。スコールとゼルを後半まで温存できたので、決め手の魔法が豊富にある。さあいくぞ!
ここから後は、面白いようにあぶなげなく戦えた。リノアは、かろうじて戦闘不能をまぬがれ、ヴァリー状態が継続した。本来は、ここで死んだらアンジェロに切り替えウイッシュスターで決める予定だったが、アルテマ連発でもいいだろう。スコールにはオーラをかけて、連続剣を撃ちまくる。どんどんアルティミシアの変貌は進み、最終段階を迎えた。ここで、とうとうリノアは死んでヴァリーがとけた。そこで、アンジェロを入れた瞬間にスコールの必殺技が炸裂し、最後の戦闘は終わった。
後で、もう一度戦ってみたが、今度はリノアが前半で戦闘から離脱してしまったが、ゼルが回復、アーバインがオーラでスコールが攻撃という連携がうまく働き、やはり勝てた。当初の戦略の優秀さが証明され、父のプライドは首一枚でつながったのでした。
余談だが、あのエンディングのハンディカムのムービーには感動した。