「天使でも獣でもない」人間

老人ホームの嘱託医をしている人からこんな話を聞いた。「60過ぎまで全く問題がなくて何かに悩んだことのない人が、老人ホームに入ってから何か悩み出すと大変です。経験がないから悩み方がわからないんです。愚痴を言うだけで、問題に取り組む糸口も見えない」毎日そういうお年寄りの相手をしているだけに、なかなか説得力のある言葉だった。何も問題がない人生だからといって、最後までそれでうまくいくとは限らないということか。

話は変わって新聞に「人間は、天使でも獣でもない。そして不幸なことに、天使のまねをしようとすると獣になってしまう」というパスカルの言葉が出ていた。

イタリアというのは、昔はユーゴなんかよりはるかにいろいろな民族がいた。ローマはそういう周辺民族を全部戦争で負かした。イタリア半島を統一してからも、地中海のあちこちでたくさんの戦争をしている。しかも、支配した地域の中には、ユダヤ教なんていう、当時の感覚からするとカルト教団に近い宗教*もあったりして、くせものがそろってる。でも、戦争の後始末も過激な宗教の扱いも上手で、怨恨は残さないで「パックスロマーナ」と呼ばれる平和な大帝国をうちたてた。(毎日、この話ばかりだが・・・)

「天使でも獣でもない」人間というものをよく理解して、無理をしなかったからだと思う。ローマ人の考えでは、戦争には勝者と敗者は存在するが、勝者=正義でもないし、敗者は単に敗者であるだけで悪者ではない。賠償金を払い、軍隊を縮小し、政治面でははローマのチェックを受けるが、それ以上のツグナイをさせようとはしなかった。決して「天使のまね」はしなかったわけだ。

自戒をこめて言うのだが、家庭の中でも子供が繰り返し問題を起こすようなら、親が「天使のまね」をしていないか、チェックした方がいいと思う。