Big brother is A/B testing you

一年前くらいから、「グリーっていう会社はみんなが思ってるよりずっと凄い会社なんだぞ」という趣旨のエントリを書こうと思っていて、書く内容はほぼ頭の中でまとまっていたのだが、書かないでいるうちにこんなことになってしまった。→グリーが希望退職を200人募集、業績悪化で | Reuters

普通なら「ああ、書かないで良かった!」と思う所だろうが、私はブログを書く上で「これを書いてる奴はこんなにふうに馬鹿なんです」という情報開示がすごく大事なことだと思っているので、こんなチャンスを見逃す手は無く、忙しい中で無理して時間をひねり出して、あえてそれを書くことにした。


グリーで一番注目すべきことは「商売する上で客のことを知る必要はない」という考え方だと思う。この思想がグリーの根幹であって、これを失なわなければ、ゲームを捨ててもグリーはグリーとしてやっていけると思う。

客を知らずにどうやって商売をするのかと言えば、「客を測定する」ということだ。ネットで商売をすると客の動きが全部ログとして残るので、予断なくそれを見張って、そのデータに従って動けばよい、ということだ。

A/Bテストという言葉が、Web業界ではだんだん流行り出しているが、これはネットショッピングサイトなどで、ページの内容(やその背後にあるプログラム)を修正する時に、いきなり改良したページを表示しないで、(ランダムに選択した)一部のユーザだけに見えるようにすることだ。いきなりAをBに切り替えるのではなく、AとBを同時に動かして、Aを見た客とBを見た客の反応を見比べる。Bを見た客の方がよりたくさんの金を落とすことが確認できたら、その時はじめて、Aを捨ててBに切り替える。もし、そうならなければ、そのままBはお蔵入りになり、サイトはAで運用したまま新しい改良点を探る。

プログラム的には、二つのバージョンを並行稼動することはちょっと工夫がいるが、特別な無理難題ということではない。

Webサイトを運営する上では、これが常識になりつつあるが、それを早い段階から徹底してやっていたのがグリーなのだと思う。

A/Bテストを導入した会社が口を揃えて言うのは、「当初の予想と実際の顧客の行動には驚くほどの違いがある」ということだそうだ。顧客のことをよく知っているつもりでも、A/Bテストによる確認は不可欠と言えるのかもしれない。

これには、「消費者の行動がネットに乗る割合が増えてきた」というシーズ的な側面と、「価値観が多様化して他人が何を考えてるか知るのが前より一段と難しくなった」というニーズ的な側面の両方があるだろう。

それで、普通は、ここから「ビッグデータ」というバズワード的な話に展開するのだが、私は「ビッグブラザー」の話につなげたい。

20世紀には「Big brother is watching you」と言われていたが、21世紀には「Big brother is A/B testing you」と言うべきだと思う。政府も多国籍企業も、あなたを監視するのではなく測定するようになるだろう。

これはそんなに悪いことではない。測定することはだいたいサービス向上につながる。建前に左右されないで、本音のレベルで多くの人がしてほしいことが、誰も何も言わないうちに実現されていく。

これを「多数決の自動化による少数者の排除」みたいに見るのは間違いで、少数者を生かすも殺すもアルゴリズム次第だ。A/Bテストをする上で重要なことは、何を指標として採用するかということで、たとえば閲覧数を増やしたいのか、登録者数を増やしたいのか、有料会員を増やしたいのか、有料会員一人あたりの利益を増やしたいのか、指標の選択次第で、A/Bテストの結果も変わる。

政治的なものごとに測定が使われるようになったら、指標をどうするかが政治の全てということにもなって、他は全部自動的に進むかもしれない。

測定というものは、データ数さえたくさん集めれば、感覚的に予想するより、ずっと良い結果を産むので、測定という考え方自体を拒否することは難しくなる。そうなれば、測定や指標やアルゴリズムの中にある思想について議論することが重要になるだろう。



というようなことを書こうと思っていたのですが、私はソーシャルゲームというものをやったことがないので、さすがに一回はしてから書くべきだろうと思っていたら、やる機会がないままグリーがあんなことになってしまいました。これをどう読むべきかは、みなさんの判断におまかせします。



一日一チベットリンク国内外から中国ジャーナリズムを眺めて〜反骨のジャーナリスト、長平氏インタビュー(上)(ふるまいよしこ) - 個人 - Yahoo!ニュース