ネットの管理は分散でいくべきじゃないだろうか?

ここ数日で、今後数年のネットを左右しそうなニュースが連続して来ている。

最初のは、Twitterの「アノテーション」という新機能の発表。

アノテーション」とは、140文字のつぶやき一つ一つに、プログラムで処理できる任意のデータを埋めこめるという話。「任意」というのが重要で、ネットの重要な技術は「任意」という言葉がつきもの。

たとえば、「つぶやきに位置情報を埋めこむ」と言われると、そのデータが何に使われどの程度の広がりを持つ話なのか、誰にでも予想がつく。この項目が増えていくとして、「URL」とか「ISBN」とか「価格」とか、項目名をつけて発表してくれれば、その意味がわかる。

でも、Twitterの偉い所は「140文字にどの項目を埋め込んだらいいか、本当にわかってる人は社外にいる」ということをよくわかっていることだ。だから、項目名もそれを使う開発者が勝手に決めてよいことになっている。「それぞれが勝手に決めて、開発者同士ですり合せしてください」ということで「任意の」となっているわけだ。

私が、このニュースを聞いて反射的に思いついたのは、次のような応用だ。

たとえばtwitterを通信経路として使うオークションのアプリとか作れそう

kindleで本読んでて気にいった一節をtwitterに投げる。見た目は書名と引用文だけの普通のtweetだけど、裏にメタデータでisbnとアフィIDが入ってて、followerはそこからダイレクトにその本が買える、とかできそう。

どんなアプリを作るにしろ、公式RTによる転送と拡散が使えるし、送信元に認証もできるし、follow関係のホップ数による処理とかできる。オークションだったら、twitter上で近い人を優先して落札させるとか3ホップ以上とは取引しないとかできる

活用法は無限にあって、その全てのアプリが、Twitterのスケーラビリティとソーシャルグラフを活用できる。

二つ目のニュースは、iTunesでコンサートのチケットが買えるようになるのでは?という話。

これは、アップルの特許申請を見ての推測なので、実際にそうなるかはわからないけど、権力を分散して物事を進める仕組み - アンカテ で書いたように、iTunesというストアとiPhoneという携帯端末の組み合せには、いろいろな可能性があることは確かだ。

三つ目は、Facebookの発表に関するTechWaveの湯川さんの解説記事。

こちらは、上の二つと比べると発表そのもののインパクトは、私にとっては小さかったが、「ポスト・グーグル世代の台頭」という勢いはすごく感じる。これをうまく表現していると思ったのが、@namekawa01さんの次のTweet

2年前は酒屋で免許証見せろといわれそうな少年だったのに、ザカーバーグに早くも強烈なカリスマが。「ウェブはソーシャルが当たり前になる、その中心はFacebook

ただ、私には、Apple/Twitter/Facebookに関して、共通に気になることがある。この三社がこれから、ネットの汎用インフラを支えていく可能性は高いと思うが、三社とも「管理の分散」というネットの基本を踏まえていない。そこが気になる。

IPパケットのルーティングもDNSもメールも、そしてもちろんWebも、ネットのインフラは全て分散処理だ。分散処理だから、部分的な故障はあっても全体としては稼動し続けるし、利用者の急増にも対応できる。

Apple/Twitter/Facebookが築こうとしているインフラは、そういう昔ながらのネットとは違って、特定の会社が単独で運用している。

単独で運用と言っても、技術的な意味では多数のサーバによる分散処理だろう。これらの会社は、そのうち、世界中のDNSサーバやメールサーバの総数に匹敵するような台数のサーバを、世界各地に分散した多数のデータセンターの中で運用していくことになるだろう。

しかし、ネットにおける分散処理は、「処理の分散」だけでなく「管理の分散」という意味もある。Apple/Twitter/Facebookは、「処理の分散」はどんどん進めていくだろうが、そのインフラの中の資源の管理は、自分たちだけで行なうだろう。

たとえば、Twitterハッシュタグの衝突問題がある。

Twitterは、ハッシュタグの運用については完全にユーザまかせだが、「管理しない」というのも管理の一つで、ユーザには、Twitterの外でハッシュタグを決めることはできない。

本来は、ハッシュタグは、#アンカテ@hatena.ne.jp のような感じで、メールアドレスと同じようにドメイン名をつけて管理されるべきものだと思う。ドメインの持ち主がハッシュタグを管理するのだ。そうすれば、今のように、誰かが気紛れにつけてなし崩し的に使われるドメインと、厳格に管理されて衝突が発生しないで予約もできるドメインが共存できる。

ネットは多数の価値観が衝突する場であって、「処理の分散」だけでは回らない。インフラには「管理の分散」も必要なのだ。

これから、Apple/Twitter/Facebookがインフラ化して、多数のアプリケーションで使われるようになっていくと、管理を分散する仕組みが無いことで、いろいろな問題が発生してくると、私は予想する。

そして、この「処理は分散、管理は集中」ということを最初にやり始めたのはグーグルだが、今のグーグルは、これら三社の追い上げを受けて、管理の分散の為の規格をいくつも提案している。

つぶやきを置く場所、友達リストを置く場所、自分のパスワードを置く場所、それらを参照する場所を、全部違う所にできるようにしようと言うのだ。メールはそうなっていて、みんなそれぞれ違う場所にメールを置いているが、それと無関係に誰とでも相互にメールのやりとりができる。ソーシャルメディアもモバイルインターネットも、こういうインターネット本来の形にすべきだと言うことだ。

「おまえが言うな」とは思うが、私はグーグルが言っていることが正解だと思う。

今までは、分散処理をしてないと、管理でなく処理の問題で破綻したので、「管理の分散」が議題に上がることはなかった。

しかし、Apple/Twitter/Facebookは、単独で世界人口全部に対応できるだろう。TwitterFacebookは「処理の分散」技術の最前線にいて、次々と技術開発を進めている。Appleだけは「処理の分散」が苦手なので、相当苦労しそうな気もするが、先行者もいるので出来ないことは無いだろう。

だから、「管理が分散してなくて本当にいいのか?」という課題が、いくつもの具体的な問題としてこれから浮上してくると私は思う。


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