WSJの誤報炎上について

WSJ誤報で炎上している模様。

このエントリがわかりやすい。

日本からYouTubeを見ると、同じ動画ファイルが何十万回も太平洋を越えてダウンロードされる。これはどう考えても無駄なことで、一度ダウンロードしたものをみんなで見るようにすれば、海底ケーブルの貴重な回線を効率的に利用できる。

それを利用者に意識させないでしようというのが、Edge Cashing という技術ではないかと思う。YouTubeのキャッシュサーバを日本に置き、日本の利用者がYouTubeを見た時にはそこにアクセスするようにしておけばいいという話。

海底ケーブルを無駄に浪費していると、そのコストは回り回って最終的には利用者の負担となる。それを未然に防ぐということだから、これは誰も損しない話で、どんどん進めるべき。むしろ、大規模な動画サイトは、そういうことをする義務があると言ってもいいくらい。

ところが、WSJが、何を間違ったのか「これはグーグルの陰謀ではないか」と言い出した。

Googleがかねてから主張してきた「network neutality」確保の方針から離脱し、YouTubeなど関連するサイトへのアクセスやダウンロードを高速にするよう求める契約をISPにもちかけている、とWSJが報道。

明後日の方角で報道している上に、根拠の無い推測も混じえているらしい。

この記事の中では、Googleのことだけでなく、オバマのインターネット政策の変質も示唆され、傍証として、インターネットに関する法律の権威であるローレンス・レッシグの方向転換が言及されている。

グーグルも即反論したし、レッシグさんもWSJの記事には何ひとつ Evidence が無い。そんなものはどこにも存在してないからだ(私はそんなことを一度も言ったことが無いからだ)。私が言っているのはこういうことだ」と言って、自分の講演の音声ファイルにリンクしたりしていて、何となく非常に怒っている雰囲気。

まあ、WikiPediaの書き込み時刻を読み間違えるよりはずっとマシだと思うけど、どこの国でもマスコミは、そういう話が好きで、その方向に話をでっちあげる傾向があるらしい。

また、Network Neutralityについては、レッシグ以上に提唱者としてよく名前が挙がるティム・ウーは次のように反応。

Google Wall Street Journal - They haven’t got the goods

ティム・ウーらしいエントリーで、WSJがこのようなストーリー、つまり、善の象徴だったグーグルがダークサイドに引き込まれてしまう、という物語、を語りたくなってしまう「物語の欲望」について軽く言及して、一蹴。

今回の誤報問題から判断すると、WSJは明かにグーグルに偏見を持っている。そして、その偏見は、特定少数の記者だけのものではなくて、広くジャーナリズム全体に共有されていると思う。

もし、本当にグーグルがダークサイドに落ちる時が来るとしたら、その偏見の為に、かえってそれを見過す結果になるような気がする。

グーグルがダークサイドに落ちることがもしあるとしたら、グーグルは、今のままのネットをまるごと手に入れたいと思うだろう。「ネット中立性」を捨てるということは、ネットが根本的に変質するということで、変質したネットを手に入れてもあまりおいしくない。

グーグルは Evil をしない為にせいいっぱい努力している。ネットが「みんなのもの」であり続ける為に、常に技術的限界に挑戦し続けている。それをやり遂げたグーグルは、それを途中であきらめてしまったグーグルよりずっと怖い存在なのだ。

その逆説を理解しないとグーグルを監視することはできないと思う。