正規雇用の反対側

私は、次のようなことを言っています。

  1. これから企業の社員の生産性は上がり正規雇用につける人は少なくなる
  2. 正規雇用の外で、従来の概念に無いアーチストのような新しい仕事、新しい働き方が増える

この1の部分については、反対が少ないというかむしろ同意する人が多く、反論、批判は2の部分に集中しているようです。

反論している方の未来像を私なりに(すごくおおざっぱですが)要約すると「これから正規雇用の領域には大きな革新が起こるが、その他の部分には大きな変化はなく、基本的には現状通りで、少しづつ雇用と収入を奪われ先細りになっていく」という感じです。

1と2を両方否定するならまだ筋が通っているけど、2だけ否定するのは、バランスを欠いた意見のように私には思えます。社会というものは相互作用で成り立っていますから、社会の特定の部分に大きな変化があって、それが他の所に一切波及しないということは考えにくいのではないでしょうか。

私は、2の部分でかなり強い主張をしているので、そこに批判が集中するのはわかるのですが、「そういう変化でなく別の形の変化が起こる、起こすべきだ」という意見は読みとれませんでした。非正規雇用の部分は放置すればジリ貧であり、政策的な介入をしてせめて現状維持を守るべきである、いずれにせよ、そこには革新的なことは起こらない、ということです。

これから、正規雇用の外にはじき出されていく人がたくさん出現するのに、そういう人には、何の力もなく何のエネルギーもなく、ただ呆然と社会の周辺に追いやられていくだけ、というような未来像を持っている人が多いように感じます。

少なくとも、そこに巨大なアンバランスが発生するのは確かではないでしょうか。ごく一部の人だけが社会の生産活動に関わることもアンバランスだし、非正規雇用に携わる人の能力と仕事が釣り合わないというアンバランスもあるし、民主主義の中での権力の過度の集中というアンバランスもあります。

こういうアンバランスが現在存在していて拡大しつつあることには私も同意しますが、拡大しているアンバランスがそのまま継続するというふうには私は考えません。逆の流れが起きてアンバランスが自然に解消されるか、政治的に革命(的な変化)か破局が起きて解消されるか、何かの形でそれは解消されると思います。

私は破局が起こる前にそれを解消すべきだし、それは充分可能なことだと思っています。なぜなら、アンバランスがある場所には、必ずビジネスチャンスがあるからです。

暇だけど金が無く行き場がないという若者がたくさんいれば、そこに何らかのビジネスチャンスがあると思います。そして、そういう若者が増えるほど、そのビジネスチャンスは大きくなっていきます。彼らの才能や教養やエネルギーを利用しようと考える人は、絶対出てきます。

id:ch1248さんが言うように、ニコニコ動画ニコニコ市場なんていうのは典型例でしょう。

ニコニコ動画は「場」と「職人」の相互作用による独自のコンテンツを開拓しつつあります。才能とは、真空中に単独で存在しているわけではなく、「場」や「ユーザ」との相互作用の中で開花するものです。その「場」を作り出せば、(潜在的に)手持ちの「職人」の中からでも、訴求力のあるコンテンツが生まれてくることを実証したと思います。

これから、こういうサービスが乱立して「職人」を取りこむ競争が始まります。その競争にはいろいろな要素がありますが、「職人」の分け前を増やすことは、その競争の重要な要素になるでしょう。

こういう時に、未来を予測する方法は二つあります。一つは、確実だけど難易度が高い方法、もう一つは、不確実だけど誰にでもできる方法です。

確実だけど難易度が高い方法とは、ニコニコ市場よりもっとよいビジネスモデル、「場」を創造する手段が無いか自分で検討することです。もっと面白い文化を創造し魅力的なコンテンツを提供し、職人たちに儲けを回してもなおかつ自分が儲かる手段を考え出せば、確実な未来として、それを予測することができます。そして、もし、自分に思いつかなかったら、そういうことは起こり得ないと判断することです。

しかし、これは誰にでも可能ではないし、具体的な方法を思いつくのであれば、自分でそのビジネスをやった方が速いですね。

もう一つのもっと簡単な方法は、具体的な手段は抜きにして、「誰か頭のいい奴がそれを考え出すだろう」と考えることです。自分ではそれを考えないで、その分の時間をアンバランスの動向を観察することに使います。アンバランスが縮小しているか拡大しているかは、情報を集めれば誰にでも判断できます。そこだけを見極めたら、あとは「誰かがこのアンバランスを商売にするだろう」と考えるのです。

「大きな歪みがあれば、誰かがそれをなんらかの手段で解消する」と考えるのが、不確実だけど誰にでもできる方法です。

もし、YouTube以前にYouTubeの出現を予測しようとしたら、後者の方法を取らざるを得ないでしょう。

まともな頭の人だったら、仮にYouTubeのサービス内容やビジネスモデルを思いついたとしても、それを自分で否定するはずです。「ナップスターの前例を見ても、著作権的にグレーな所を強行突破しようとしたらつぶされるな」「動画をそんなふうに配信したら回線がパンクするし回線代が凄いことになる」「いくらユーザがついてもそんな危い会社に出資する所があるわけがない」現物を見るまでは、その信念は変わらないでしょう。

私のことを頭がおかしいと思っている人がいるようですが、まあ、たぶん基本的にはそうだと思いますが、私にも、YouTubeがまともでないことを理解するくらいの理性はあります。誰かにこんなビジネスプランで相談されたら、「そんなサービスが成功するわけがない」と全力で止めようとしたでしょう。

私は、必死でその理性にブレーキをかけてブログを書いています。だって、自分は、ネットで成功するビジネスモデルを考えつけるほど頭が良くないから。

私より頭がいい人はたくさんいるので、これからも、2ちゃんねるYouTubeのようなあり得ないサービスが続々と出現して、それが社会に大きなインパクトを与えていくでしょう。その結果、「アンバランス」が解消されて、新しい働き方が生まれてくると私は考えます。

プレートの歪みを観測すれば、「このあたりで今後数十年以内にM7クラスの地震が起きる」くらいのおおざっぱな地震予知ができます。私にできるのはそういうレベルで、ピンポイントで震源の位置を予測したり、日時を予言することはできません。でも、プレートの歪みについての観測結果をブログに書いてみて、そこについてはあまり反対意見がないので、地震が起きるのは確かだと思っています。

そして、歪みの解消は早いうちに行なわれた方がいいし、連続的に分散して起きた方がいいと希望しています。私が描いているのは、そういう未来像です。この点については、楽観的な見方をしていることは認めます。

ただ、その楽観性を否定するとしたら、「地震は起こらない」ではなくて「もっと大きな地震が起こる」という意見になるのが普通ではないでしょうか。

ニコニコ市場の延長線上にたくさんのアーチストが食える未来がある」ということが楽観的で間違っているとしたら、「我々がまだ見てないニコニコより2ちゃんねるよりYouTubeよりもっととんでもないもっとわけのわからないサービスが、我々の想像の埒外にあるもっとよくわからない意味不明の職業を生み出す革命を起こす」ということになるのだと思います。

その「革命」がビジネスの枠内で起こるか枠外で起こるかはわかりませんが、正規雇用の一極集中によるアンバランスを解消する形で、新しい働き方が生まれてくるのは確かだと思います。