岩田社長は一日にして成らず

「こちら側」対「あちら側」最終決戦が3年後くらいに予定されていて、今は「こちら側」と「あちら側」それぞれの予選が行なわれている所。それで、このエントリ内の一覧表に出てるプレーヤーが、その予選に進出しているわけだろう。順当に行けば、準決勝がアップル対任天堂になって、その勝者が、「あちら側」を勝ち残ってきたグーグルとの最終決戦に進むのではないか。

まあ、その予想はともかく、「岩田聡」という名前は、そろそろ「ゲーム」というコンテキストでなく、「企業経営」とか「グローバルビジネス」というコンテキストで語られる人になってくるだろう。

つまり、一時期の日産ゴーン社長のような扱いになると思うけど、やっぱり、コストカットでなく新しい市場を創出して業績を上げた分だけ岩田さんの方がすごいし、それが経営の基本だと思う。

そういう意味で、非常にグッドタイミングだと思うのが、このエントリー。

1999年までの3年間、岩田さんは何を考え、何をやっていたのか。グーグルやアップルと対抗できる日本の経営者は、どうやって生まれたのか?という、今一番ホットな疑問への答がここにある。

岩田: でも、ジャックというプロジェクトの結果が このように出てから、 スタッフひとりひとりが次のステップに それぞれ上がるためには、 ひとりひとりの考えもこの時点で 整理されるべきだし、 このプロジェクトの在り様が総括される うえでも「ほぼ日」にとりあげてもらう ことが大事だし、必要なプロセスだと思う、 と言ったんです。

WiiやDSに発展するコンセプトの原点が、ポケモンスナップにはあると思うけど、それがここまで熟成したのは、このタイミングできちっと総括していたから。

そして、「その総括を歪曲されないメディアで公開する」ということを意識的にやっていたわけです。

宮本:濃かったですよね。 でもね、ぼくにとっては、あんなに楽な 面接もなかったんですよ。 中村君と糸井さんと岩田さんがいて、 自分が聞こうと思ったことをぜんぶ他の人が 聞いてくれるなんて経験は、他にはなかった ことなので(笑)。

岩田さんが、個人に対する掘り下げに徹底的にこだわる人であったことがうかがえる。

岩田: ある意味での制約も必要だということです。 管理っていう部分には、悪い面ばかりが 言われるけど、価値観のまちまちな人たちが 集まって何か1つのものを作るのに、 あのような放任のやり方がよかったのか。 共通の価値観も、共通の約束も、共通の文化 も持たない、ばらばらの人たちがばらばらに 集められて、ひとつのものを作るための チームを組んだわけですからね。 そこに圧倒的な強者としてのリーダーが、 つまり例えば宮本プロデューサーが、 ドンとまん中に座っていればね、 「このチームは宮本の価値観でやるのだ」と 安心して決められて話は簡単なんだけど、 糸井さんや僕や宮本さんは、このチームを 「自立したチーム」にするのだと、志向した わけです。

「自立したチームには制約が重要」という考え方は、Jason Friedに通じる。

岩田:ほとんど全員に言えることなんですが、 一度は開発意欲を失いそうになったり、 いろんな形で不健康な状態になったり していましたから。

ここは月並だけど、どん底も経験しているということで。

昨日、まさに昨日なんですが、 「ロム出し」したんですよ。 (編集部註:インタビューが行なわれる前日) デバッグ完了して、ロム出しして、 今から工場に入れて生産に入りますよ、 っていうときに、 スタッフの頭のなかで、経験値が入る音が 「チャリンチャリン」って聞こえた、 という話を聞きまして。 「あ、これが、ソフトを完成させるという  ことなのだ、と実感できました」って 彼らは私に言ったんです。

「スタッフの経験値」ということを強く意識しているのですね。

あと何より重要なのは、学級会で学んだ ことって、コストがないんですよ。 コストとリスクが。

この座談会が出た時にも、私はここを自分の日記に引用していました

宮本: 前にあった議論なんですけど、 「マップは広くあるべきか? 狭くあるべきか?」みたいなことが あったときに、一番支持されるのは 「ほどほどに」がいいんですよ。 けど、「ほどほどに」には コンセプトがないやろ、と思うんですよ。 このゲームのこのケースでは、 マップはちっちゃくあるべきか、 大きくあるべきか、まず決めろよ、って いうような部分が、 あらゆる設計に言えることなんですよ。

「あらゆる設計において『ほどほど』に安住しないことが重要」

岩田さんのキャリアをビジネス誌風に総括したら、「現場をよく知る人」ということになると思うけど、「現場を知る」というのは、この記事でわかるように「ものを作る人」のことをよく知るということである。岩田さんの関心は一貫して、ゲームそのものよりスタッフやチームのあり方に向いている。

岩田さんを話題にするなら、その部分に注目してほしいと思う。